第32話 世界の中心で私はブスだと叫ぼう
偶数日の7時前後の更新を目指しています。
たまに遅れる日もあります。
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「なんでそう思うようになったんだい」
そう言われても、私がブスだって思うようになったのは、みんながブスだって言うからだ。
誰にも言われなければそうは思わない。十人並みの器量だと思うだけだ。
幼稚園の頃から言われ続けていれば、さすがに自分の器量の悪さに気づく。
「うーん、みんなって、どういう人たちなんだい」
「男の子たちです。それから女の子も少しいました。あと、保護者の人たち」
「保護者が? よその子にか? 嘘だろう」
ディードリッヒ兄様がびっくりしたように言う。
でも言われた。
私はバレエは習っていたけれど、舞台にたったことはない。一年程度で引っ越してしまう生徒にお役はこない。
だからいつも見ているだけか、大きくなってからは裏方仕事。まあ、発表会に出ようとすると10万単位でお金がかかるからいいんだけどね。チケットのノルマもないし。
でも招待されてきた子がパンフレットに私の名前も写真もないのを見て、「ブスだから出してもらえない」って言うの。
保護者の中にも「きれいだったら出られるのにね」って裏方仕事をしている私にすれ違いざまに言うんだよ。
大体のお母さんたちは「お仕事がんばってくれてありがとうね」って言ってくれたけど、子供だもん。大人にそう言われたら信じるに決まってる。
「あと、私と手をつなぐのが嫌だから手袋したり」
「ほう」
「調理実習で私の作ったものは食べられないから手を出すなって言われて、参加しないから成績下がって」
「ひどいな」
「給食で牛乳飲んでるときに私も飲むと、あいつと同じのだ、もう食べらないって捨てに行ったり」
「・・・」
「朝わたしが教室に入ると吐き気がするって保健室に行っちゃったり」
「・・・」
「気持ち悪くなるくらいのブスなんですよ、私。だから中学は男の子のいない女子校を選んだんです。女の子はそんなこと言わないから」
執務室は沈黙に包まれた。
これだけ言えば、私がブスだってわかってくれたかな。
「ルー、ちょっと確認しておくが、君は小学校を6回変わったって言っていたね」
「はい、親がスナ〇キン族なんで」
「それはどこの小学校で言われたんだい」
「どこでも。最初は親切にしてくれるんですけど、半年もするとまんべんなくです」
男四人顔を見合わせて黙ってしまう。
「ルー、君も鏡で自分の顔を見たことくらいあるだろう」
「いえ、ありません」
「なんで!」
「気持ちの悪いものわざわざ見なくちゃいけないんですか。バレエのレッスンの時は体の動きだけ見るようにしていましたし、写真も証明用のものしか撮ってません。いやじゃないですか。毎日自分がブスだって思い知らされるの。お化粧しないし見る必要を感じません」
ギルマスが思い出したと言った。
「私が君の顔を思い出せない理由だが」
「なんですか」
「ルー、君は前髪で顔を隠していたね。試合中に顔を出していないから気になったんだ」
ああ。確かに。私が髪を結ぶのはバレエのレッスンの時だけだ。
「だってこんな気持ち悪い顔見てやる気がなくなったら、試合相手に失礼じゃないですか」
「・・・それじゃ君は謙遜でもなく、本気で自分が醜いと思っているのかい」
「はい、ギルマス。真実ですから」
またまた男四人黙り込む。
「私だってそうじゃないと思いたかったですよ。だから親に聞いたんです。私の顔はどうって」
「・・・」
「そしたら父が言ったんです。人間は顔じゃない、心だって。それでああ、やっぱり私ってブスなんだって確信しました」
私以外の四人が大きな大きなため息をついた。
「親にとどめを刺されたのか」
「また余計な一言を」
こちらに来て美少女なんて呼ばれて舞い上がってたけど、本当の私は吐き気がするほどブスなんだ。それにこっちの顔じゃなかったら、アロイスと面と向かって話なんてできない。
「ルー、よく聞いてくれ。大切なことだ」
男四人が物凄く真剣な顔で正対する。
「君は、多分、ブスじゃない」
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