第27話 護衛という名の
冒険者ギルドの二階。ギルドマスター室。
いつもの4人がギルマスの机の前に並んでいる。
雰囲気は・・・かなり悪い。
昨日の対番会。
真っ暗状態から戻ってきた私をびっくりお目目で迎えてくれた三人は、早々にお開きにして私を宿舎に帰らせた。
そして朝いちばんでここに呼び出している。
「ギルマス、本人わかっていないようですが、こいつ昨日あっちに戻ってます」
エイヴァンが親指で私を指さす。
「何言ってるの。私、昨日も寝られなかったわ」
「夜じゃない。飲んでるときだ。お前の姿が消えたんだ」
「本当だよ。覚えてない? 一瞬だったけど、確かに消えた」
と言われても。
私は昨日の真っ暗になったときのことを話した。
白い天井、緑のカーテン、誰かが突然現れたこと。
「君の話が確かだとすると、現世の君は入院しているようだね」
「そして、多分、意識不明の重体だ」
そんなはずはない。だって、私は、トラックにひかれてい・な・い・。
「だから、その後になにかあったんだ。その結果として君は意識不明になって、あちらに戻れないでいる」
「でも・・・」
ギルマスが私の肩をポンっとたたく。
「昨日は一瞬だが意識がもどった。つまり君の体は良い方向に向かっているということだ。あまり心配しないで普段通り過ごそう。わかったね?」
「はい・・・」
◎
今、私は三つ目の『護衛』のチュートリアルをしている。
誰かと一緒に目的地に行きもどっと来るだけ。
そして護衛対象はご老公様だ。
「ご老公様、なぜ私は馬車に乗っているのでしょう」
「護衛じゃから?」
「いえ、変でしょう。馬車に乗っていたら、咄嗟に動けませんよね? 現にアロイスは外で馬に乗ってるじゃありませんか」
「馬、乗れるのか?」
「乗れません」
「じゃあ、一緒に馬車に乗っているしかないのう」
これって護衛のチュートリアルだったよね。これじゃ単なるお出かけのお供なんだけど。
しばらくして馬車が止まり、窓からアロイスが目的地に到着したと声をかけてきた。
◎
目的地は冒険者ギルドで、私たちはギルマスの執務室にいる。
ギルマスとご老公様が向かい合って座り、エイヴァン兄様とディードリッヒ兄様がギルマスの横に立つ。
私はご老公様の後ろに立ち、足を肩幅のひろさにして立ち、両手を前でそろえていつでも動けるようにする。
ギルマスと兄様たちがほぅという顔をする。
いや、映画とかニュースとかで見る要人警護の人たちのマネですよ。
立ち姿がかっこいいから一度やってみたかっただけ。
「今日お越しいただいたのは、ルーのチュートリアルもありますが、彼女の現状について少しわかってきたことがありまして」
ギルマスが昨日までのことを簡単に説明する。
ご老公様は黙ってそれを聞いていたが、ギルマスの話が終わるとわかったとうなづく」
「つまり、あれじゃな。『領主の助け舟』が欲しいということじゃな?」
「ええ、その通りです。本当は現領主様からいただきたいのですが、ここから王都までは数日かかります。その前に現世の彼女に何かあったら困るのです」
『領主の助け舟』とはなんだろう。聞いてみたいが私は護衛。話し合いに口を出すことはしない。
できるだけ表情を出さないようにして立っている。
「ギルマス、『領主の助け舟』ってなんだ。俺は聞いたことがない」
エイヴァン兄様がたずねる。私も知りたい。
「こちらで現世での個人情報を話すことは禁止されてはいない。だか、極力話さないように指導しているし、無理に聞き出すことはご法度なのは知っている通りだ」
「助け舟とはそれを領主権限で許可するというものじゃ。ただし全員に口外できないよう契約魔法がかけられる」
契約魔法。そんなものもあるんだ。異世界、抜け目ない。
「つまり彼女が現世でどうなっているか、誰かが確かめに行くということか」
「実は少し試してみたいこともあるんだよ。ディードリッヒは無理だが、私とアロイス、そしてエイヴァンならできる」
兄様たちが不思議そうに顔を見合わせる。
「もしかしたら、あちらでも回復魔法が使えるかもしれない」
「!」
三人のうちの誰かが私が入院している病院に行って、面会がてら回復魔法をかけてみようというのだ。
「もちろん効くかどうかはわからない。こちらにいるより弱い効果しかないかもしれない。だが、やってみる価値はあると思うのだよ」
「・・・確かに。あっちには魔法がないから、使ってみようと考えたこともなかった」
「だが、どうやって会いにいくんだ。突然知らない人間が訪ねてきたら、不審に思われないか」
そこは何かそれらしい設定を考えるらしい。
「それで、君の家はどこにあるんだい。場所によっては無理かもしれない」
「東京です。23区内」
「あ、俺は無理だ。京都だから」
エイヴァン兄様、雅なところにお住まいですね。
「京都ゆうても北のほう。京都人扱いされてない」
「俺は長崎。回復魔法を使えても無理だな。ギルマスはどうです」
「私は都内だ。行けそうだね」
「あのお」
私の斜め後ろに立っていたアロイスがおずおずと手を挙げる。
「僕も都内です。あの、僕が行きましょうか。お見舞いに行くのに年齢的に一番おかしくないと思うんですが」
「アロイス、行ってくれるか」
「はい。僕でよければ」
来てくれる人が決まった。なんだかホッとする。肩から力が抜けたような気がして、自分がかなり不安に凝り固まっていたのに気が付いた。
でもアロイスが来てくれる。意識不明なのは変わらないけれど、私のことを心配して動いてくれる人たちがいるのがうれしい。
「じゃあ、君の名前と住所、通っている学校を教えてくれるかい」
一瞬で顔がこわばったのがわかった。
名前、言いたくない。
でも言わなきゃいけない。
「さとう・・・めぐみです」
「漢字はどう書くんだい。名前のほうはひらがなかな」
「普通に佐藤です。名前の方はちょっと漢字が変わってて・・・」
ペンをもったギルマスが紙に書きとろうとしている。
言わなきゃだめなのよね。
私は腹をくくった。
「めぐみは人偏に漢数字の・・・」
「人偏に漢数字・・・ ! まさか、ブラッディ・ジンかっ!!」
「いやゃゃあぁぁぁぁっ! なんで知ってるのぉぉぉぉぉっ?!」
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