第26話 採取のチュートリアル終了!
ザクザクザク。
「また寝られなかったのかい」
「うん・・・。全然寝られなかった」
本日、私はアロイスの他にエイヴァン、ディードリッヒと4人でチュートリアルをしている。
昨日一日使い物にならなかったペナルティだって。
薬草は昨日ギルマスが確定してくれているので、今日からは雑草を刈り取る作業だけだ。
官妻、官舎に住む奥様方直伝の草刈りのテクニックは伝授済み。
だってチュートリアルに魔法を使っちゃいけないんだもの
新しい場所は3人にまかせて、私は昨日までのところの取り残しを刈る作業をしている。
このチュートリアル、二か月もかかった人って、たぶん根っこを取り残してせっかく刈ったのに後からどんどん生えてきちゃったんだと思う。
だから多少手がかかってもきっちりやっておかないと、後々もっと苦労することになる。
ホラ、基礎って大事でしょ。
「これで何日目だ」
「四日目。今日寝られなかったら五日ですね」
「さすがに長いな。・・・ツっ!」
ディードリッヒが鎌を落とす。
地面に赤いシミができる。
「あー、やっちまった」
「切っちゃいました? 絆創膏・・・はないか。なにか布・・・」
「大丈夫だ。おーい、アル、頼む」
少し離れていたアロイスが小走りでやってくる。
「なにやってるんですか、ディー兄さん。刃物は扱いなれているでしょう」
「慣れてるのは剣だ。鎌じゃない」
「しかたないなあ。ちょっとみせてください」
アロイスがディードリッヒの左手をつかむと、鎌で切れた指に手をかざす。
「治って」
指先がボッと小さく光ったと思ったら、傷が消えていた。
「ヒール・・・本当に治るんだ」
「適正があれば誰でも使える簡単な魔法だよ。僕はまだ小さな傷を治すくらいしかできないけどね」
「中には欠けた手足を復活できる奴もいるが、それはかなりの魔力持ちで、しかも数人いるかいないかだ。魔法で何でも治せると思わないほうがいい」
小説の中では当たり前に使われている回復魔法、実際に見るとこんな感じなんだ。
剣と魔法の世界。
実際に見ると聞くとでは大違い。
私も魔法を使えるようになりたい。
とりあえずチュートリアルをすべて終えて、こちらで寝られるようになって、あちらとこちらと両方で頑張ろう。
◎
と、思っていた時期もありました。
あれから二日。採取のチュートリアルを五日という最短で終わらせた私は、ハイディさんの酒場で対番会に参加している。
参加者はエイヴァン兄様とディードリッヒ兄様。そして私とアロイスの4人だ。
対番のことは兄さん、姉さんと呼ぶしきたりなんだと。
アロイスには年齢近いから止めてと言われた。
今日はお酒はなし。アロイスも私もジュースで乾杯。
「それにしても今日で一週間か。全然眠くないのか」
「そうなんですよ、ディードリッヒ兄様。眠気の欠片もありません」
「・・・その兄様というのは止めて?」
「いやです。こればっかりは譲れません」
めちゃくちゃまわりで笑い者になってるんだよおと、ディードリッヒ兄様が頭を抱える。
エイヴァン兄様も頼むからと手を合わせてくる。
「かなり恥ずかしいんだよ。からかわれるんだよ」
「しかたないじゃない。私の同級生はみんな様付けよ。エイヴァン兄様こそ歩み寄るべきだとおもう」
「なんでディードリッヒには敬語で俺にはため口なんだよ!」
「ちゃんと紹介された人との違い?」
今回も個室を借りているので、少し大声でもまわりを気にしなくてもいい。
前回のような高級店ではないが、酒場の料理はおいしい。
普通にフライドポテトや唐揚げが出される。お箸もあるし、調味料もあちらと同じだ。
「日本人が入り込んで何百年だからなあ。職人なんかもいたし、あまり生活に不自由はないぞ」
「その辺はありがたいよな」
「ラノベでよくある料理で成り上がりはできないけどね」
ごはん、おいしい。
もともとこの酒場は初代の店長がベナンダンティで、冒険者にならなかった人が始めたそうだ。
それから新しいベナンダンティが来るたびに、その時代時代のレシピを加えて続いている。
そんな話を聞いていると、突然目の前が真っ暗になった。
何も見えない。
体が動かない。
声を出そうとしても、口が何かで覆われているのかうめき声しか出ない。
突然まわりが明るくなった。
無理やり目を開けてみる。
白い天井。
緑のカーテン。
それがシャッと開けられて、知らないお姉さんが現れる。
「目が! 305の患者さん、覚醒です!」
バタバタと音がする。
もう一度まわりが真っ暗になる。
目をあけると、対番三人が口をポカンとあけて私を見ていた。
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