第20話 私の新しいお部屋
「またすごい半生だったんだねえ」
「この生活が当たり前だったんで、中学に入って定住するまでは疑問はもちませんでした」
「児相がよく黙っていなかったね」
「通報はされましたよ。中学卒業するまで、正義の味方が通報してくれてましたけど」
ギルマスと向かい合って座り、家庭環境を説明し終えた私はジュースで喉を潤した。
「最後の方は通報があった旨のみ連絡があるだけでした。問題ない家庭と言うことで」
「未成年の女子中学生が一人暮らしだろう。問題ないなんてことはないんじゃないかい」
「両親そろっているのに仕事ばかりで家にいない。育児放棄、児童虐待、仕事やめて専業主婦になれって意見の人たちが通報するんです。そして、私のうちの両隣、両親の祖父母の家ですよ。どこに問題が?」
それは確かに問題ないし心強いね。ギルマスはそう言って笑った。
「同級生の親御さんから目の敵にされちゃって、転勤族っていうのもあって友達いなかったし、ここにこれて新しい世界が開きそうです。あ、もう開いちゃってますね」
「そうだね。冒険者の仕事は楽ではないけれど、たくさんの人と関わっている。ここで人との付き合い方を覚えて、現世でそれを生かしたら良いよ。そうか、君がここになじむのが早かったのは、引っ越しが多かったからなんだね」
「幼稚園の園歌は二つ歌えまーす。小学校の校歌は六つ歌えまーす。生粋のスナ○キン族でーす」
度重なる引っ越しに着いてきてくれた両祖父母に感謝。宴会は朝方まで続くから、適当な時間に引き上げるようにと言ってギルマスは席を立った。
「ルー、ちょっといい?」
入れ替わるようにアロイスがやってきた。
「紹介するよ。僕の対番のディードリッヒ」
「ディードリッヒだ」
「あ、屋根から落ちた人」
「うるせい」
「ブッ」
私を捕まえようとして屋根から落ちた大刀。冒険者の皆さん、大男が多いね。
「はじめまして、じゃないけど、ルーです。よろしくお願い申し上げます」
「はあ、いいところのお嬢さんか。さっきはすまなかったな。握った手、痕になってないか」
私は手首を見せて大丈夫と言った。それよりそちら様は逮捕されていたのでは?
「最速記録達成の恩赦で解放された。まあ、市警のほうもノリでやっていたところもあるからな。前科もつかないさ」
「それはよろしゅうございました」
「・・・その話し方。お前、本当に見た目通りの年?」
「祖父母に育てられましたから。小さい頃は曾祖母もおりましたので、目上の方への言葉遣いは厳しく躾けられました」
ギルマスにはもっと砕けた話し方じゃないか、と、言われても、それはギルマスの暖かい雰囲気とかこちらをリラックスさせてくれる気遣いとかじゃないかしら。それに紹介されたばかりの人に馴れ馴れしい態度はとれないしね。
「お年寄りにはいいが、俺たちみたいなのにそれはやめろ。丁寧通り越して嫌味だぞ。だが、お偉いさんの護衛任務とかにはいいんじゃないか。ダンスは出来るか」
「こちらのダンスがどういうものかわかりませんけど、踊るのは好きです」
「急いで覚えろ。舞踏会に潜入しての情報収集などもあるからな。必要な資料は宿舎の図書室にある。アルに案内してもらえ」
「恐れ入ります」
「だから、それ、止めろって」
「善処します」
「言っても無駄か」
俺はもう少し飲むから、お前たちはとっとと寝ろよ。ディードリッヒはそう言って仲間のところに行った。
私はアロイスに連れられて、ベナンダンティ専用の宿舎に向かった。
◎
「ここが僕ら専用の宿舎。一階はお風呂と食堂。資料室や洗濯なんかの家事室になっている」
「三階建てって、大きいね」
「食事は昼と夜。朝はみんな直接ギルドに行くからね。洗濯とかは専用の袋に入れて出しておけば、通いのおばさんたちがやってくれる。掃除も同じ」
タンタンと階段を上がっていく。
「ここが2階。男性専用のフロア。女性形態でも男性はここまでしかこれない。ここから上は女性専用フロア。お風呂も上にあるはずだよ。僕は上がったことがないからしらないけど」
「私、どの部屋を使ったらいいの?」
「ドアに名前が書いてあるはずだよ。男性用と同じなら、トイレとシャワーがついてるはず。あとお茶の支度ができる位の簡単なキッチンが各階にあるよ。ヤカンはあるけど、お茶道具は自分で集めてね」
アロイスに渡されたカギを確かめる。
「じゃあ、お休み。布団に入って眠ったら現世に戻っているからね。明日またギルドで会おう。今日はお疲れ様」
「おやすみなさい。今日はいろいろと本当にありがとう。明日からよろしくね」
アロイスと別れ、自分の名前の書かれた部屋を見つける。部屋には聞いていたとおりのベッド。シャワーとトイレ。そして小さなタンスとテーブルと椅子があった。
タンスの中は空。明日もらった報酬で下着と寝間着を買おう。
少しずつ揃えていったら、きっとこの部屋はすてきになる。
明日のチュートリアルはなんだろう。
軽くシャワーを浴びて、私は布団に潜り込み眠りについた。
だが、いつまでたっても私に眠りは訪れなかったんだけど。
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