第19話 私の作り方 好きでこうなったわけじゃない

えー、ちょっとこの話このまま続けていいものか不安になっています。

ちょっと疲れてきたかも。


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「君は一体、何者なんだい」


 ギルマスがにこやかにそう言った。私は何を言っているのかよくわからなかった。


「市警長とも話したんだけれど、君があまりに新人離れした肝の据わりかたをしているのでね。なにか特別な職業か訓練をしてきたんじゃないかと思ったんだ。ただの女子高生とも思えないしね」

「ちょっ、ちょっと、ちょっと待って下さい! なんで私が女子高生ってわかるんですか。ついでに特別なナントカってなんですか!」

「新体操かなにかやってるのかな。それと、なにか武芸も経験しているね」

「だからっ! 待って下さいって!」


 幸い私の声は大騒ぎの中、他の人には聞こえなかったようだ。私は呼吸を整えてギルマスに問いただした。


「一体何を仰っているんですか。私、ただの女子高生ですよ。特別な習い事なんてしてないです。なんでそう思われたんですか。ってかなんで女子高生ってわかったんですか」

「ああ、それはね」


 第二次世界大戦の後、キリスト教に入信する人がずいぶんいたらしい。


「それまではマリア、ペトロ、パウロ、ヨセフなんていうのが霊名で使われていたんだけど、大人になってから入信した人たちは、自分だけの特別な霊名をつけたがってね。その結果として少し変わった名前が結構選ばれた。君のご友人のお祖母様の霊名がそれだよ。で、逆算してギリギリ女子高生だと思ったんだ。それにベナンダンティとして目覚めるのは16才くらいのことが多いしね」

「あぁ、そうなんですね」


 言われてみれば納得なんだけど、クリスチャンネームにもキラキラネームってあったんだ。


「それと生まれた日の聖人の名前をいただくことが多いから、霊名から誕生日もわかるよ。君のお友達は12月生まれじゃないかい」

「うわあ、当たりです」

「この年になるとね、いろいろなことを足したり引いたりして当てることができるのさ。でも、君の普通じゃない胆力と判断力がどこから来たのかはわからない」



 どこからきたのか。私にはわかってる。

 私の両親は特別職国家公務員だ。

 何もなければほぼ毎日帰宅できる陸さんや空さんと違って、一度家を出たらいつ帰ってくるかかわらない船乗り。それも二人とも。

 勤務地が別々なんてざらで、半年帰ってこないなんてことも何回もあったなあ。

 小学校を卒業するまではどちらかの祖母が一緒に暮らしてくれていたけれど、年寄りは体調を崩すこともあるので、一人で過ごすことも何回かはあった。

 でもね、この職業ってものすごく勉強させてくれるのよね。

 両親どちらかが学生しているときは、一年間は研修旅行以外毎日会えたし、二人一緒の入校の時は休みに三人で旅行にも行けた。

「会えた」って時点でおかしいんだけどね。

 だってあっちは「また来るよ」とか「船に帰る」とかいって出て行くんだもん。

 変わった家族かもしれないけれど、育児放棄されたとは思ってないし、愛されていないって感じたこともない。

 ただ、両親には娘の私より守らなければいけない存在があったというだけだ。

「仕事と私とどっちが大事!」なんて問い詰めているドラマを見て、この女バカだろうって思ったもんです。

 中学に入ると日本全国まわる生活は終わって、とりあえず定住することになった。

 でも両親が転勤族なのは変わらなくて、祖父母も結構な年になっていて、ほぼ私だけの一人暮らしみたいな感じになってた。

 それだけなら普通の暮らしなんだけどね。

 知ってる? 台風になると船って港から出て行くの。

 避泊って言うんだけどね。

 港にいて船が岸壁にあたってしまうのを避けて沖に逃げるの。

 そうすると、当然両親は船に行ってしまうわけで、家には私一人残される。

 母は家にいるときは毎日天気図を見ていた。

 台風が来そうになると、お惣菜の作り置きとか、水やお米の買い置き。懐中電灯やベランダのチェック。

ご近所への根回し。祖母への連絡。私が危なくないよう精一杯の準備をしてくれていた。

 それでも非常事態とは来るもので、ブレーカーが上がったり、停電になったり、断水になったり、ガラスが割れたり。私一人で対処しなければならないことも多々あった。

 普通の日だって、いろいろあった。

 いきなり盲腸になったときはあせったなあ。徒歩5分の所に大きな病院があったから助かったけど。

 看護師さんに学校への連絡とか頼んで、入院手続きと手術の同意書とか自分でやって。

 まあ、事前にこちらの情報を渡しておいて、いざという時はよろしくって根回しはしてあったからスムースにいけたんだけどね。

 可愛げが無いってよく言われてた。子供らしくないっていうのもね。

 でも、一瞬の判断ミスが命取りになるんだよ。

 キャーキャー騒いで誰かの助けを待ってたら、さらに状況は悪化するわけで、後始末だって自分でしなくちゃいけない訳だから、とにかく冷静になって最善の策を取れるように生きてきた。

 そんなこんなをずーっとやってきたおかげで、妙に肝の据わった変な女子高生ができあがったわけだ。

 日頃の暮らしの積み重ね。

 だからギルマスにはこう言うしかなかった。


「家庭環境と生育環境のせいです」

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