第18話 戦い終わって日が暮れちゃって

「お疲れ様、よく頑張ったわね。探索のチュートリアル、記録更新よ」


 ギルドの受付カウンターでサインの入った依頼書をわたすと、受付嬢のビーさんがにこやかに依頼達成の宣言をしてくれた。

 その声を聞いたら、なんだか力が抜けた。

 ヘナヘナとその場に座り込むと、その場にいた冒険者の皆さんが口々におめでとうといってくれる。


「はあぁ、もう走らなくていいんだぁ」


 フードコートの椅子を勧められ、冷たい飲み物を手渡される。

 一気にあおると体がスッと軽くなる。


「回復薬入りのジュースだよ。依頼帰りなんかによく飲むんだ」


 いつのまにかアロイスが前の椅子に座っていた。


「ありがとう。頭、大丈夫? さっきぶたれてなかった?」

「うん、思い切りぶたれたわけじゃないから。いきなり後ろからだったんでガードができなかっただけ。ちゃんと手加減きはされてたよ」


 アロイスはそう言って小さな巾着袋を差し出す。


「はい、依頼の達成料。まだフカだから、通常の配達依頼の半分だけど」

「練習なのにお金がもらえるんだ。あ、そうだ。ずっと聞きたいことがあったんだけど」

「なに?」

「フカって何? 街の人、みんな私のことそう呼ぶんだけど」


 ああ、あれか。と、アロイスは椅子に座り直す。


「冒険者にはレベルがあるのはわかる?」

「よく言うあれでしょ? AクラスとかSクラスとかいうの」

「そう、フカっていうのは正式に冒険者として登録される前のクラスのこと」


 そう言ってアロイスが取り出した紙には冒険者の暮らす一覧が書いてあった。


こうおつへいてい不可ふか。上からラノベでいうAクラスだよ」

「フカって、不可のことだったんだ。ってか、なんで漢字? アルファベットじゃないの?」

「いや、だってはるか昔からあるんだよ。アルファベットなわけないじゃない」

「それはそうだけど。なんか違和感が・・・」

「でも、まだこれでシンプルになったんだ。開国までは漢数字だったし」


 明治に学校制度が始まり成績がつけられるようになるまでは、一、十、百と、クラスがものすごく多かったそうだ。


「その名残として、SクラスやSSクラスなんかにあたる特別クラスには漢数字が使われている。全部で5クラスあるけど、一番上の2クラスは今は該当者はいないんだ」

「ちなみにその特別クラスっていうのは?」

「下から、恒河沙こうがしゃ阿僧祇あそぎ那由他なゆた不可思議ふかしぎ無量大数むりょうたいすう。数字持ちって呼ばれる人たちだよ。そういう人たちはここより辺境の危ないところに行くから、まあ出会うチャンスはないかな」

「ちなみにアルのクラスは? あ、聞いちゃだめ?」


 かまわないよと言って、アロイスが首に書けていたチェーンを見せてくれた。


「ラノベだとカードで書かれているけれど、ここではこのチェーンについている石に全ての情報が入ってる。石を見ただけじゃわからないから、クラスをごまかして言う人もいるけれど、ギルドで確認すればすぐばれるからね。僕のクラスは丙。ちょうど真ん中」


 チュートリアルが全て終われば君ももらえるよと言って、また服の中に戻した。

 外の広場がなんかうるさいな。

 するとギルドの扉が勢いよくあいて、例の大男が現れた。


「準備が出来た。顔かせや」



 まさかまた追いかけっこかと思ってギルドの外にでると、ものすごい歓声がわいた。

 そして私は大男の肩に担ぎ上げられる。


「今日のヒロインのお出ましだ! 道を開けろ!」

「いよっ、美少女フカ!」

「疾風のルー!」

「一蹴のルー!」


 いつの間にか二つ名がついていた。

 担ぎ上げられたまま広場の真ん中に連れていかれる。そしてジョッキを持たされる。


「あー、今日、新たに探索のチュートリアルの記録が更新された。この記録が破られることはしばらくはないだろう。なぜなら!」


 大男は自分もジョッキを持って大声で宣言する。


「次回もまたこの記録を守るために、俺が率先して邪魔するからだ!」


 広場に盛大なブーイングが鳴り響く。


「うるせえ! 残りのチュートリアル、誰よりも早く達成するだろう脅威の新人。フカ初日にして二つ名を与えられた最速のルーに、乾杯だ!!」


 地響きのような乾杯コール。私はやっと地面に下ろされた。



「やあ、飲んでるかい?」


 ひょいとギルマスが現れた。


「飲んでます。ジュースですけど」

「はは、それがいい。こっちで酒の味を覚えると、あちらでも飲みたくなるからね。二十歳になるまではがまんだよ」


 大男はとっとと釈放された仲間たちのところに行ってしまった。広場は冒険者や市警、街の人たちで大賑わいだ。


「びっくりしただろう。こういうのはよくあることじゃないんだが、街の特徴と言うか、何かあると全力で盛り上がってしまうんだ。彼も本当は悪い奴じゃないんだよ」

「わかります。この宴会、あの人が企画したんですってね」


 テーブルの間をバケツが行き交っている。


「あれは?」

「ああ、この宴会費用を彼が全部出すと言ったんだがね、さすがに一人では無理だろう。だから、義援金だよ。街のみんなが自発的に集めている」

「私も出した方がいいですか」

「止めておきなさい。祝われる人間に出されたんじゃあ彼の立場がね」

「そうですか」

「ところで・・・」


 ギルマスは小さな声で聞いた」


「君は一体、何者なんだい」

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