第11話 棒付きキャンデーはどれだけ美味しいのだろう

 落っこちた人は、やはり軽傷だったようだ。

 駆けつけたおまわりさんにボコボコにされて連れていかれた。

 容赦ない。

 が、自業自得。

 彼を止めてくれたおまわりさんに付き添われて、お屋敷街に入る。おまわりさんの持ち場ではないということでここでお別れだ。

 キャンデーを渡そうとしたら、これが仕事なので受け取れないと断られた。 

 そこからは裕福なお家のお屋敷を渡り歩いた。

 私を捕まえようとする集団はほとんど捕縛されているらしく、あまり姿を見かけなくなった。

 それでも時折現れて、私の邪魔をしようとする。そうするとメイドさんやお嬢様が出てきて、


「私の知ってる冒険者様は、そんな卑怯なことはしませんわ!」


とか、


「さすが冒険者様、このお嬢さんの味方をなさるんですね!」


 とか棒読みで声をかける。そうすると、


「お、おうよ!」


 とか顔を赤くして言って、素直に通してくれる。冒険者様達、チョロい。

 私はキャンデーの大盤振る舞いだ。

 しかし何軒目かのお屋敷を出たところで、ついに数人の男達に囲まれた。


「なんでまたいちいちつっかかってくるのよ。私たち、初対面よね。こんなことされる理由がないわ」

「義を見てせざるは勇無きなりって昔の人も言ってるぜ」

「同じギルドの仲間が力をあわせている。理由はそれだけで十分だ」

「力を合わせてこその冒険者だ」

「一人はみんなのために。みんなは一人のために!」


 男達は何かに陶酔するかのようにウンウンと頷く。

 それが犯罪一歩手前であるのをわかっていないのは一目瞭然。


「私を追いかけてきた人たちは、おまわりさんに捕まったわ。ここだってすぐに人が来る。あなたたち、おしまいよ!」

「明日の夜まで静かにしてもらうだけだ。手荒なことはしないし、食事だって用意する。人が集まってくる前に、黙って俺たちについてきてくれ」

「お・こ・と・わ・り!!」


 私は囲んでいる男達の口に、ラスさんのキャンデーをつっこんだ。


「・・・フッ、対価を受け取ったわね。さあ、通してもらうわよ」

「クッ、なんて卑劣なマネを!」

「てめぇ、人間じゃねえ!」

「あー、どの口がそれいうか。これか、この口か」


 まだ受け取っていない男たちの口にも、容赦なく甘い棒を放り込んでおく。

 よし、この場は制圧した!



「みんな~ありがとね~」


 今、私は上等な服を着た子供達に囲まれている。

 そう、新たな協力者たちだ。

 彼らは冒険者が近づいてくると、


「冒険者のおじさん、銀髪の女の人が向こうに走って行ったよ」

「冒険者のおにいさま、アタシと遊んでくださいませ」

「転んじゃって歩けないの。おうちまで送ってください」


 等々、子供らしいあざとさで大人を翻弄していく。

 彼らはお屋敷街のあちこちで活躍しているが、それを統括する年かさの、と言っても小学校中学年くらいの男の子がいて、彼らの活動をチェック。まとめてキャンデーを要求してくる。


「嘘の報告をすると、ここでは遊んでもらえなくなるし、父様たちの顔に泥を塗ることになるから、ちゃんと正直に報告するよ。それにね」


 子供だけで動くと危ないから、かならず見えないところに使用人が隠れているという。

 子供から見えていないだけで、かなりの数の大人がめっちゃいるんですけど。


「がんばってね、フカのお姉さん。僕たち駄菓子屋に行けないから、キャンデーがすごく楽しみなんだ」


 だから、フカって誰だよ。



「ちくしょおぉぉぉっ! 間に合わなかった!」

「まて! まだ代官屋敷に入っただけだ! ギルド本部に着かなきゃチュートリアル達成じゃない!」

「そうだ。あきらめるのはまだ早い! 俺たちの団結力を示すのはこれからだ!」


 代官屋敷の門をなんとかくぐった

 後ろから怒号が攻め寄せてくる。

 知るか。

 息切れしながら屋敷の扉を開ける。

 ここはゴール直前。

 その私をアルが迎えてくれた。

 私、やりきる一歩手前?

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