第4話 個人情報は保護の方向で

 ルチア・メタトローナ。

 それが私が選んだ新しい名前。


「光の聖女ルチアと大天使メタトローナか。またすごい名前にしたね」

「そんなのがポンっと出てくるなんて、もしかして君、ちゅう・・・」

「ちゃうわいっ!」


 それなりごっこ遊びしている坊やたちと一緒にされてたまるか。


「これはっ、クラスメートのクリスチャンネームなの! 教えてもらったとき、すっごくかっこよくて綺麗な名前でいいなっておもったから!」


 そう、本当うらやましかったんだ。


「弟とお兄さんも大天使の名前なんだって。赤ちゃんのときルチアってつけてもらったけど、大きくなってもう1つ自分で選べるときに、兄弟で同じ大天使の名前がほしかったから選んだって言ってた」

「にしても、なんでまた聖書にも出てこないサンダルフォンを?」

「お兄さんがミカエルで、弟がガブリエル。美術部の自分がラファエルにしたら、大笑いされそうでいやだったから、だそうです。ちなみにお母さんはアルクの聖ヨハンナで、おばあさんは幼き花のイエズスだったかな。祖父母の代からのカトリック一家なんですよ」


 自分の名前がいや。

 これって、あまりわかってもらえない。

 字面だけでは判断できないもんね。

 他人からは素敵な名前でも、本人とってはどうしょうもないってあるよね。

 だから、うらやましかったの。

 本名の他に真の名前が持てるって。


「じゃあ、このルチア・メタトローナで決まりだね。愛称はルーでいいかな?」

「はい、そんなかんじでお願いします」

「ルーか、じゃあ僕のことはアルでいいよ。これからよろしくね」


 私は二人とがっちり握手した。


「ところで、さっきの個人情報のことなんですけれど・・・」

「ああ、それも説明しなくちゃね。今の姿が現実の姿とは違うっていうのは理解してくれたよね」

「ええ、私の本質を現した姿ってことですね」

「そう、それだ」


 こちらではその人の本質を現した姿になる。

 だから、年齢も性別も関係ない。

 つまり・・・。


「僕はもしかしたら、50歳くらいのおばちゃんかもしれないし」

「私ももしかしたら二十歳の女子大生かもしれないよ」

「そ、それは・・・」


 こわいっ! なにそれっ!


「笑い話じゃないよ。実際困ったこともあったしね。こちらでペアを組んでた人たちだけど・・・」


 女の子の二人組。

 めちゃくちゃ仲が良くて、かわいいアクセサリーやお菓子を前にキャッキャウフフしている姿を、町の人たちは温かい目で見ていた。

 お互い親友だと自慢していた。

 何をするにも、どこへいくのも一緒だった。

 そのうち現実世界でも会いたくなって、時間と場所を決めて待ち合わせをした。

 プレゼントを持って、お互いワクワクしながら待っていた。


「が、待ち合わせ場所に来たのはどちらも男。それも40過ぎたサラリーマン。もちろん既婚子持ちだった」

「そ、それでどうなったんですか、その人たち」

「泣きながら居酒屋で乾杯したそうだ。その後もペアは続けて、現世でも仲良くしているよ」

「よかった・・・」


 私はホッとしたが、ギルマスは笑っていない。


「こんなに丸く収まることはあまりない。あちらでストーカーになったり、こちらのことをばらすと脅迫されたり、古くは無理心中なんていうのもあったそうだ。昔と違ってネット社会になっているから、個人特定は簡単だ。そんなわけで君の現世の情報は固くガードしてくれ。ベナンダンティ全員が聖人君子というわけじゃないんだよ」

「わかりました。十分注意します」

「それじゃあ、今度は現世への帰り方をおしえようか」

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