第3話  どうして そんな 名前ですのん

「「かっこいいからっ!!」」


 そんな理由で自分たちの名前を決めたんだ。

 なんだ、その『京都生まれのイタリアーン』みたいなのりは。


「とりあえずそう言っておけば納得してくれる人がほとんどなんだけど、君は違うみたいだね」


 ソファに戻ったギルマスがくすくす笑う。


「むしろそんな説明で納得できる神経を疑います」

「ぐっじょぶしてくれる人もいるんだけどね。まあ、それくらいの柔軟性がないと、現状を受け入れにくいというか。ええと、昔から私たちのことをしめす言葉はなかったんだ」


 まあ座りなさいよと言われて、私は元の場所に戻った。


「勝手が悪いから、自分たちではシノビとかクサとか名乗っていたね。で、いまから50年ほどまえだね。前のギルマスが海外の書籍からベナンダンティという言葉を見つけてきたんだ」


 それまで夢の中で戦う存在は世界中にいたけれど、やはり表だっておたがい話題にすることはなかったし、当然それを何というかなんて決める必要はなかった。

 ところがイタリア北部の小さな地域では、ベナンダンティという名前で大手を振って活動していたという。


「コミュニティーの中で存在と活動をゆるされた仲間がいる。すばらしいことじゃないか。感激した前ギルマスが、この名前を採用して今にいたるというわけだ」

「そうだったんですか。なら最初からそう言ってくだされば・・・」

「いきなりここに来て、きっちり説明されても戸惑うだけだから、まずは明るいノリで現状を受け入れてもらって、細かい説明はおいおいにってことだね」

「僕もそんなかんじで説明されたよ。君はずいぶん冷静だよね」


 そうか、ここはオロオロあたふたして、泣いて怖がったほうがよかったのかもしれない。

 でも、自分が死んだと思った時に、なんだか冷静になっちゃったんだよ。

 そういえば・・・。


「本家イタリアのベナンダンティさんたちって、今はどうしているんですか」

「今もいるよ。ただし、そう名乗ってはいないし、社会的には存在しないことになっている」

「え、どういうことですか」

「異端信仰とされて、表舞台からは消えたね。でもまだがんばって戦ってるよ。それでは、次に君のここでの名前を決めようか。いつまでも『君』では不便だろう?」


 ギルマスは執務机から一枚の紙を持ってきた。


「じっくり考えてもいいけど、勢いで決めたほうが馴染むよ。さあ、書いて」


 私の名前。

 本名は・・・普通の名前だ。

 うん、キラキラネームじゃない。

 でも、私は自分の名前が好きじゃない。

 親が一生懸命悩んでつけてくれたって分かってる。でも、好きじゃないんだ。

 もっと、女の子らしい、きれいな名前になりたかった。

 勢いで決めていいなら・・・うん、あれがいい。

 私はギルマスから渡された紙に大書した。


 ルチア・メタトローナ

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