第2話 ここは誰だ 私はどこだ いえ、言ってみたかっただけ
ベナンダンティとは。
16世紀から17世紀のイタリア。
その農村部で信じられていた存在です。
彼らは眠ると、夢の中で畑に害をなす存在と戦います。
ベナンダンティになる条件はシャツをかぶって生まれてくることです。
そしてあなたもベナンダンティ。
一緒にここで戦いましょう!
ざっくりした説明だわ。
「初めてここに来た人の中には、耳で聞くより目で見た方が納得するっていう人もいるんだ。だから一応簡単な説明書きを用意してるんだよ」
「簡単すぎてかえってわかりにくいです。それで私、ベナンダンティっていうのになったんですか。シャツをかぶってって、よくわからないんですけど」
「それはね」
と、もう一枚の紙を渡される。
シャツとは。
赤ちゃんがお腹の中にいるとき、子宮の中で包んでいる羊膜のことです。
赤ちゃんが生まれた後、後産として出てきますが、まれに一部を体に貼り付けて生まれる子がいます。
その子こそ、あなたです。
「君、帝王切開で生まれてない?」
「あ、はい。母が言ってました。お腹切ってるから、普通に産んだ方が楽だって。それがシャツを着たってことなんですか?」
「僕もそうだよ、切開組。ここのところ多いね」
アロイスがニコニコと手をふった。
「そうやって生まれてきた子は、年頃になると覚醒する。君が気がついたあの白い部屋、あそこにたどり着く。あの部屋はベナンダンティがこちらの世界に来るための部屋で、新人は後から来たベナンダンティが冒険者ギルドに案内することになっている。君がアロイスに連れて来られたみたいにね。そして、基本一度に一人しか存在できない。新しい覚醒者が現れたとき限定で二人が許されるんだ」
「だからあの時、後がつかえてるって言ったんですね」
「こちらに来るときは必ずあの部屋を通る。扉は冒険者ギルドの入り口に直結しているよ」
帰り方はまたべつなんだけどねと言ってギルマスは立ち上がった。
「わかってもらえたみたいだね。じゃあ、もう一つ大事なことを教えておこう」
ギルマスは私を壁の大きな鏡の前に立たせた。
「すいません。どなたですか」
「まちがいなく君だね」
そこに映っているのは、銀色のサラサラヘアー天使の輪っかつき。緑の大きな目。手足は長くて細い。
これ、私じゃない。
いや、太くはないんだけど、私の手足は習い事のせいで筋肉質だ。
こんな華奢な美少女じゃない!
「あー、ショックを受けてるようだけど、この姿は君の本質を現しているんだよ。つまり、真実の君だ」
「真実の私・・・。うっ、かえって現実の自分が惨めったらしい。でもっ、あこがれの細っこい腕っ!」
「最初はね、僕もこの真っ赤な髪を受け入れるのに時間がかかったよ。日本人なのに赤毛ってびっくりだよね」
なんですって?
「イタリア人だと思った・・・」
「この世界に来るのはほとんど日本人だね。多分その国々で集う世界があるんじゃないかな」
「あ、でも僕はこのあいだオタクのアメリカ人にあったよ。ジャパニーズラノベ最高とか言ってたけど」
「そちらの趣味の海外からの覚醒者もふえたね。賑やかで結構なことだね」
和やかに笑い合う二人。
私は先ほど感じた疑問を投げかけた。
「日本人しかいないのに、なんでイタリアのベナンダンティって名前なんですか?」
「「かっこいいから!」」
・・・聞くんじゃなかった。
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