新人ベナンダンティのチュートリアル
第1話 やっぱり異世界転生じゃないですか
「君が見ている夢なんだよ!」
赤毛の少年はそう言って私を椅子から立たせた。
「説明したいけど、まずはこの部屋から出よう。後がつかえてるから」
そしてなにもない空間に手をかざす。
って、今にぎってるドアノブ、どこからでました?
やっぱりここは死後の世界ですか。
そしてあなたは神様ですか!
「違うってば! 僕は普通の一般市民だから! いいかげん異世界転生から離れて! ちゃんと説明できる人のところに連れてくから!」
と、彼はドアノブを開けようとしたところでピタッと止まった。
「いろいろ聞きたいこともあるかと思うけど、僕がいいって言うまで口を閉じておいてくれる? 面倒くさいことになるからね。君は登録希望者で、偶然会った僕に案内されてきた。初めての場所にどうしていいのかとまどっている。そんな感じでよろしく!」
よろしくされたけど、それって演技必要ないんじゃない?
素のままでいいよね。
何が何だかわからないことが続いている。
私は事故で死んだと思っていた。
でも、赤毛の彼はそうじゃないって言っている。
私が見ている夢?
そのドアノブを開けたら、目が覚めるのかしら。
とにかくお口チャックして彼についていくことにする。
コクコクうなずく私の手を握り、彼は勢いよく扉をあけた。
◎
はい、また違う場所にいますね。
私はなんだか総合病院の受付のような場所にいた。
正面にはカウンターがいくつもあって、同じ服を着た男女が中に座っている。
片側はフードコートのようなもの、もう片方は掲示板らしきものがあって、たくさんの人が見入っている。
「おはよう、アロイス。あら、そちらのかわいいお嬢さんは?」
カウンター内のきれいなお姉さんが、私たちに気づいて声をかけてくる。
「おはよう、ビー。登録希望の子だよ。ギルマス面接したいんだけど、彼、上かな?」
登録、ギルマス、掲示板。これって・・・。
「ぼっ!」
冒険者ギルド。
そう言いかけて、お口チャックを思い出し手で口を押さえる。
やっぱり、異世界転生だぁぁぁっ!
アワアワしている私を温かい目で見て、お姉さんは横の階段を指ししめす。
「ええ、二階よ。来客もないし、案内なしで行って大丈夫。久々の新人さんね。面接、通るといいわね」
「ありがとう。ホラ、行くよ」
いってらっしゃいと手を振るお姉さんに頭を下げ、私はアロイス、赤毛の彼に手を引かれて階段を上った。
◎
「ようこそ、冒険者ギルド『あふれ出した本棚』へ!」
なんじゃ、その変なネーミングセンスは。
普通ギルドって言ったら、『深紅の槍』とか『戦士の宿り木』とか、こう、かっこいいって言うか、力強い感じじゃない?
「いやいや、ちゃんと意味があるんだからね? もう何百年も使われている由緒正しいギルド名だから」
初めてギルド名を聞いた人は、きっと私と同じような反応をするんだろう。
私たちを迎え入れてくれた男性は、苦笑いでソファーに座りなさいと言う。
「ギルマス、彼女は覚醒者です。僕が着いたとき、椅子に座っていました」
「ほお、それはそれは」
彫りの入った木のカップを私たちの前に置き、彼は右手を差し出した。
「あらためて、ようこそ我がギルドへ。ギルドマスターのマルウィンだよ」
「僕はアロイス。あ、もう話しても大丈夫」
差し出された手をにぎりかえした。
アロイス君とマルウィンさんか。
「はじめまして。あの、私は・・・」
「「はいっ、ストーップ!」」
はい?
「名前、年齢、性別、職業。君が本当に信頼できるって思えるまで、他人に教えちゃいけないよ」
「君の生きてきた人生、ここでは何の意味もないからね」
「逆に悪用される可能性があるんだよ」
まってください。今、私、全人生否定されませんでした?
「違うよ。否定しているんじゃなくて、今までの生活とは違う人生が待っているってことなんだ」
だから、これって異世界転生・・・。
「してないって! 何度でも言うけど、これは異世界転生なんかじゃない。君はまだ生きているんだって」
では、異世界転移。
「それも違うねえ。似ているかもしれないけど。だって、君は・・・」
「「ベナンダンティだから」」
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