第23話 地下3階 10部屋(その4)
それにしても……と、俺は結界を維持したまま周囲を確認してため息をついた。
こんな家畜小屋みたいな部屋が宿屋の個室で、いつ洗ったかわからないようなシーツ(気持ち悪いので丸めて足元へ置いてある)が乗っているだけのベッドが家具か。
まだしもロビンソン・クルーソーやターザンの方が清潔でマシな生活をしているように思える。
うちのダンジョンの俺の部屋も、相当に手狭で何もないと思っていたけれど、ここに比べりゃ御殿のような暮らしをしていたというのがよくわかる。
ちなみにいま現在のうちのダンジョンは地上一階地下三階建てで全部で10部屋ある。
この五カ月あまりで河の流れを操作して、森を沈めて、当初の予定通りに琵琶湖よりもちょっと大きめの湖を作り、そこにおよそ50あまりの島を作ったそのひとつ。
特に目立たない島の中央にダンジョンの入り口があり、入るとまず玄室っぽい部屋がひとつに階段がひとつ。
その階段を降りると、延々と縞模様の回廊が続いている。回廊には何本も枝道があり、そのうち何箇所かにランダムで宝箱が湧くよう設定がされている。
宝箱の中にあるのは、俺たちにはまったく意味のない薬草やこの世界では希少なガラス細工の壺や工芸品などで、まあこれは割れやすいものを持って戦闘とかしかうないだろうから、見つけたらさっさと戻れという俺からのメッセージである。
で、運がいいのか悪いのかはわからないけれど、そのまま回廊を進むとドンドンと湿度が下がってほとんど0%になる。
水筒とか持っていてもどこまで我慢できるか……ちなみに当初予定していた〈スケルトン〉の導入はいまのところ行っていない。
レギィの進化を待って、吸血行為で最下級の吸血鬼を量産できるようになったら、逐次冒険者を吸血鬼に帰る予定ではいるけれど。
その代わりに〈ストーン・ゴーレム〉を5体ほど徘徊させているので、エンカウントしたら戦うなり逃げるなりするだろう。
そうしてどうにかボス部屋にたどり着くと、そこには〈アイアン・ゴーレム〉が1体と〈ストーン・ゴーレム〉2体が立ち塞がっている。
その奥に断崖絶壁を挟んでいかにも清涼な水をたたえたオアシスがあって、ゴーレムたちを斃した冒険者とかが、ここの水を無警戒に飲もうとすると……何も起こらない。
その代わり無茶苦茶水が美味い。
《
甘露というのはまさにこれか、という感じでカラカラに喉が渇いた連中は、およそ自制が利かずに死ぬほど水を飲むことになる。まさに文字通りに。
鋼鉄の意思があってどうにか抑えることができるかというところだろうが、ここで緊張感がぷっつり切れた連中の頭上から、裏ボスである〈ガーゴイル〉が3体襲い掛かることになる。
これを躱してさらに地下二階に下りると、円筒形のホール部屋があって、ここを縦横に走る蜘蛛の巣があり、さらに通路は細い階段と時たま通路を横断する空中回廊となっている(改造した)。
さらに壁には幾つもの滝が滔々と流れ(湖の水を流している)、時たま水生のモンスターも紛れ込んでくる鬼畜仕様。
そして襲い掛かってくる〈デススパイダー〉×10とそれを統率する《アラクネ》のシノ。
ものすごい奇跡か実力者であれば、これを切り抜け地下二階の基底にたどり着くと、そこにはずらりと並ぶ扉があり、間違った扉を開くと必殺の罠が炸裂する仕様であった。
なお、本物の地下三階へ降りる扉は、ホールの中ほどにある水の流れる滝の裏側にあったりする。
ここを鬼のような運で見つけられた者が扉を開くと『転移門』があり、転移した先には燦燦と照り付ける太陽と草原と森が現れる。ちなみに植えられている植物はすべて地球のものなので、現地人には『魔の森』『魔の草原』と呼ばれる代物であろう。
なお、地下三階はほぼ正方形の一辺が10kmほどもある広大な空間であるが、基本的に果てというものはない。10㎞真っ直ぐ進めば元の場所に戻るだけで、頭上へ飛んでもどこまでも空が広がっているようにしか感じられない閉鎖空間である。
基本的に暇な連中(リュジュやフィーナやトワ)が、ここでゴロゴロしたり、丸太小屋を建てて飼っている動物と戯れたり(動物は魔物にカウントされないので、とりあえず牛と鶏と豚を何頭か飼っている)しているので、侵入者がいた場合には誰か、もしくは全員で迎撃に向かう。
なお、ここから正式な地下三階へ向かうには、丸太小屋のある場所から少し離れた場所にある『転移門』を使う必要がある。
転移した先に、ようやく地下三階があって、無防備に俺たちに生活空間がある――というのが、いまの俺たちのダンジョンの姿だった。
「まあ、とりあえず。この後は冒険者ギルドへ行って、情報収集だろうな」
もともとこの町へ来たのは、実際の原住民の生態を観察するのともうひとつ。
うちのダンジョンについて――なにしろ巨大な湖をひとつ作るという荒業をしたわけだから話題にならないわけがない――情報が出ていないか。
特に教皇庁の反応を確認するのが主目的であったのだ。
問題がなければ、このまま教皇庁の総本山へ殴り込みをかける予定でいる。
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