第4話 地下1階 2部屋(その1)

「本当によろしいのですか?」


 何度も確認するヤミに頷いて、俺はその意思が固いことを示した。


「……わかりました。では、5,000ポイントを消費してマスタールームと同規模の小部屋を増築します。照明と水回りはサービスとなっています。それと1,000ポイントで『地魔法・ピット』、5ポイントで『ダウジング』の計6,005ポイントの消費となります」

「あ、待った。水回りってことは上下水道?」

「はい。現在マスタールームにおいてキッチン、トイレ、シャワー、洗濯用の四栓が使用されていますので、残り四箇所に設置可能です。それよりも増やす場合にはポイントを消費して、基本料金プランからやり直しとなりますが」

「う~ん。新たに造る部屋の水道ってどう流すわけ? 何もない部屋の中に蛇口だけぽつんとあるのは、どう見ても不自然だと思うけど。つーか現地に蛇口ってあるわけ?」

「そこまで文明が進んでおりません。水道があるのは王都か領都くらいで、それも地上を通る流下式ですので、おおよそ文明的には地球の神聖ローマ時代程度とお考え下さい。一部は魔術によって地球の近代文明並みのものもございますが、産業革命は起きておりませんのであくまで極一部で、火薬すらありません」


 じゃあなおさら不自然やんけ。


「なので偽装します。壁から流れる地下水、もしくは地下から染み出した泉という体裁を取ります」

「待て。そうなると水道代が……」

「基本的に循環式ですので、誰かに飲まれない限り自然蒸発は加味しなくても大丈夫です。最初に流す量と、使われた場合の補充分のみの料金ポイントとなります」


 それはそれで勿体ないな。


「つーかさ、最初に『下水道料金はかからない』って言ったよね?」

「はい」

「なら例えば雨水を溜めて流した場合は上水道料金も」

「発生しませんね」


 そう答えながらも、『そんな都合よく雨を溜められるのかしら?』と、ヤミの表情は懐疑的であった。

 まあそうだろう。誰だってそう思う。俺だってそう思う――が、

「仮に上水道をここまで延ばさなかった場合、その余ったポイントで部屋を大きくしたりはできない?」

「可能です。その場合は1.5倍……およそ九畳間相当の部屋にできます。ちなみにポイントのみで同じ大きさの部屋にした場合には、素直に1.5倍の7,500ポイントが必要です」


 なるほどつまり2,500ポイント得しているわけで、1,005ポイント使ってもまだ余裕はあるってわけだ。


「ああそうだ。上水がなくても下水道施設はついたまま?」

「ええ、まあ……ダンジョン内部の清浄化のため、浄化機能はダンジョンの構造材に必須で組み込まれていますので、死体や廃棄物が残ることもありません」


 よし! と、俺はガッツポーズをした。


「あともうひとつ。部屋に設置される照明の数は一個だけなのか?」

「そのサイズの部屋ですと、玄関部分と中央、マスタールームへの出入り口の三箇所のみですね。まあ位置はアカシャ様の『迷宮創作(Lv1)』で配置を変えることは可能ですが」

「じゃあ最後にひとつ。照明をカスタマイズすることは可能?」

「それも『迷宮創作(Lv1)』で可能です。極端に大きくしたり、爆発するような仕掛けは別料金でのポイントが必要になりますけれど」

「いや、形や大きさはそのままで、ただ表面に微弱な電気・・・・・を通したいんだ。確か電気代もかからないんだろう?」

「!?」


 そう重ねて確認をすると、ヤミが驚きとも呆れともとれる表情で黙り込んだかと思うと、難しい顔になってじっと考え込み、

「……さすがに想定外の質問でしたので運営にQ&Aで確認をとりました」

 じきに結論が出たのか、そう言ってため息をついた。


「結論としましては、ええ、可能ですし料金も発生しません。ですが通電させられる電気は殺傷能力のない5万ボルトまでの電圧とさせていただきます」

「上等だ」


 用途を考えれば5万ボルトでもオーバーキルってものだ。

 思わず喝采を放つ俺の顔を、心底不思議そうに見据えるヤミ。


「あの、運営も……そして私個人も気になっているのですが、それでどうするつもりなのですか?」


 問われた俺は、別に隠すことでもないので考えた腹案を話して聞かせた。


「虫を殺す」

「――は?」

「虫だよ虫。数さえいれば虫でもポイントになるんだろう? だったら夜間に扉を開けてプレオープン状態にして虫をおびき寄せる。つまり誘蛾灯だな。で、電気でイチコロってわけだ」

「な、なるほど。確かにこの世界では夜間に人が外、まして森の中を出歩くことなどまずありませんから、一晩でかなりの虫を駆除できるでしょうね」


 納得した風のヤミへ、ついでとばかり付け加える。


「あと水場も確保しておく。その方が水を求めに来る虫も獲れるだろうから」

「ですが水道は――」

「なので『ダウジング』で地下水を探して、穴をあける地魔法『ピット』で水が出るまで穴を掘る」

「!!」


 本来は瞬時に落とし穴を掘る魔法らしいけど、井戸掘りに使っちゃ悪いという決まりはないだろう。


「地下水を流す分には上下水道料金はかからないんだろう?」

「た、確かに。一般に自治体でもよほど大きな施設や工場でもなければ、地下水――つまり井戸水――への水道料金と下水道料金の課金は曖昧ですし、少なくとも上水道料金は発生しないのが通例です。それに倣えばダンジョンにおいて、ポイントを加算するのは範囲外……いえ、アカシャ様の発想自体が想定外です」


 驚いていいのか呆れていいのか、どちらともつかない表情で曖昧な笑みを浮かべるヤミを眺めながら、なんとなく俺はこの世界に俺を連れてきた連中に一矢報いた気分で笑い返した。


 ☆ ★ ☆ ★


 塵も積もればなんとやら……で、翌朝起きた俺がベッドから降りるのに合わせて、奥義書グリモワール形態で本棚に収まっていたヤミも、パラパラと回転しながら見慣れた美少女形態へと変貌を遂げた。


 俺としては女の子にベッドを使わせて、俺はテーブルの上にでも寝っ転がってれば良かったのだけれど、ヤミが、

「とんでもございません! 従卒であるわたくしがマスターであるアカシャ様の寝所を使い、こともあろうにテーブルの上へ追いやるなどと、冗談でも口に出してはなりません!」

 頑として聞き入れず、やむなくこの形となったのだ。


 まあ、もともとヤミの場合は奥義書の姿の方が本体であり、人の姿を取る場合にはまずは俺のMPを消費して依り代を形作り、その後は周囲の魔素を取り込んでその姿を維持しなければならないそうで、省エネのためにも夜間は本来の姿になっていたほうが都合がいいらしい。


 とはいえ、そうであってもそのうち部屋を拡張するなり、個室を作るなりして、ヤミ用のベッドも揃えよう……そう密かに画策する俺なのだった。


「おはよう」

「おはようございます、アカシャ様。お加減はよろしいでしょうか?」

「ああ、すこぶる快調だな」


 これは単なる挨拶の定型ではない。実際、自分でもびっくりするほど気力・体力共に漲っているのだ。


「おそらくは就寝中にLvが上がり、その影響でステータスに変動が起きているのではないでしょうか?」

 そう俺の疑問を読んで答えを導き出すヤミ。

 それから、促されるままダンジョンマスターの椅子に座ってステータスを確認してみた。


----------------------------------------------------------------------------

Name:虚空(通称:アカシャ)

Rank:Dungeon Master

Class:Der Erlkönig

Level:3

HP:1650/1650

MP:1800/1900

Status:

・STR 70

・VIT 68

・DEX 60

・AGI 52

・INT 74

・LUK 9

Point:3555/3555

Skill:『迷宮創作(Lv1)』『召喚魔法(Lv1)』『土魔法・ピット』『ダウジング(Lv2)』

Title:『異界の魔人』『罠師の魔王トラッパーズ・デビル

Privilege:レアリティ☆☆☆以上魔物ガチャ(1/1)[初回特典]

     レアリティ☆☆☆以上装備ガチャ(1/1)[初日プレオープン特典]

     レアリティ☆☆☆☆☆以上魔物ガチャ(1/1)[初日enemy撃退・駆除特典]

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「お! おおおっ、Lv3になってる。あとなんか変な名称と、ガチャが追加されている!」

「おめでとうございます。アカシャ様の功績に応じて、運営からのプレゼントですね。Titleに関しては、今後のダンジョン作成時にプラス補正が働くことになりますので、それですとおそらくは罠系統の効率が良くなると思われます」

「なるほど……」


 どうやら運営の意表を突いたことで、運営は俺のことを『罠師』もしくは『詐欺師』と見なしたってことか。やってくれるな……。


「あと、このガチャなんだけど――」

「あの、その前に一階の扉を閉めませんか? いつまでもプレオープンにしておくと、動物やモンスター、最悪原住民に発見される危険がありますので」


 ついつい興奮して性急にいまあるものの確認を進めようとする俺を制して、ヤミが頭の上――正確には斜め上――を指さした。

 言われてみればその通り。

 迂闊に開けっ放しにしておくわけにはいかない。日中は偽装しておかないと。


 自分が思いがけずに浮かれ過ぎていたのを自覚させられ、ばつの悪い思いで立ち上がって出口へと向かう。

 一歩離れてヤミが当然のように付いてくる。


 で、玄関先で靴を履いて扉を開けると、そこには薄暗い階段が上に向かって続いていた。

 階段の造りは床と同じ石造りで、壁と天井は花崗岩を組み合わせたようなダンジョンの岩である。

 昨日、5,000ポイントで部屋を増築した後、もともとあった部分を『迷宮創作』で操作して地下一階へ持っていき、増築部分を一階部分として残しておいたのだ。


 もともとあった部屋(マスタールーム)は、垂直方向ではなく斜め下方向に沈下させる形となったことから、こうして双方の部屋をつなぐ通路も斜め方向へ延びる形となっている。

 ちなみに通常の通路に関しては、追加でポイントを払わない限り、基本的に最小限かつ飾り気も罠もない最短距離を取る形で自動的に延びる形となるそうだ。


 そんなわけで一階分を上り切ると、そこには九畳ほどの殺風景な石造りの小部屋があった。

 ただし変わったところでは、部屋の中央にすり鉢状の井戸が掘られ、そこに水が溜まっているのと――昨日、『ダウジング』で水脈を見つけて、『地魔法・ピット』で掘りまくった結果であり、水が出た当初は結構泥水臭かったのだが、一晩でだいぶ上澄みは綺麗になっているようだ――天井からぶら下がった照明のひとつが水面以下に沈降していて、薄明りと細かい電気を放っていることと、部屋の二箇所のこちらは天井付近に照明の水晶がぶら下がっており、これも細かく静電気を放っているパチパチという音が聞こえるくらいである。


「虫の類はダンジョンの壁や床に吸収されて浄化されているようですね。井戸の方は底の方に小動物の骨らしきものが見えますので、虫目当てか水を飲みに来たネズミやトカゲが感電死したようですね」

「なるほど。それで予想よりもポイントとLvの上りが多かったのか」


 体感だけれど、一晩でポイントは100程度。Lvが2上がったわけなのだから、これは予想以上の効果だろう。


「そうですね。コンスタントに100ポイント稼げるのでしたら、半年で約18,000ポイントが濡れ手で粟で手に入るということになりますから」

「とりあえず最低限の生活費は賄える……ってわけだ」


 相槌を打ってくれるヤミに頷き返しながら、俺はぐるりと井戸を迂回して、一晩開けっ放しになっていたダンジョンの扉を閉めて鍵を掛けた。

 これで再び偽装は完了した筈である。


「とりあえず飯にするか」

「――はい」

 俺がそう促してマスタールームに戻ろうと踵を返すと、いまだ一緒に食事をすることにわだかまりがあるのか、ヤミは微妙な表情でぎこちなく頷いた。


 さて、余裕を持つと人間、趣味や嗜好に走るものである。

 今朝はいつもの『食パン』一斤(3ポイント)に『バター』(5ポイント)、『バターナイフ』(2ポイント)、『紅茶ティーパック・12個入り』(2ポイント)、『湯沸かしケトル』(20ポイント)、『マグカップ(安物)』(2×2=4ポイント)の合計36ポイントを消費して朝食となった。


「つーか、キッチンがあるわけだし、おいおい調理器具も取り揃えたいものだね」

「……とはいえ、いつもこのペースではポイントなんて貯まりませんよ?」


 ポイントの使い過ぎと、暗に視線で俺を掣肘するヤミ。

 うっ……確かに。

 割と自制なくポイントを使っているけれど、だけどもともと何もないのだから初期費用でポイントを使用するのは、これはもうやむを得ないだろう。


「まあ、最低限の衣食住……とりあえず住は保証されているんだから、衣で着替えを二着くらい購入して、食の方も低品質でいいから調理器具を揃えりゃなんとかなるだろう」

「まあそうですね。ちなみに必要な調理器具というのは何を想定しいらっしゃるのでしょうか?」

「そりゃ……鍋とフライパンと包丁とまな板」

 思いついた限り、俺は指折り数えて列挙する。

「電子レンジ」「却下。その都度調理すればいいので必要ありません」

「ヤカン」「いま湯沸かしケトル購入したではありませんか」

「冷蔵庫」「魔法の『インベントリ』を覚えれば、アカシャ様のMPに応じて亜空間に収納できます。収納中は時間の経過も劣化もありません」

「――炊飯器! これだけは譲れない。そろそろ白米が食べたい!」「鍋で炊けます。料理くらいでしたらマニュアルにありますし、レパートリーも3,000種類ほどは網羅しておりますので、道具と材料さえあれば今後はわたくしがご用意いたします」


 ということで、有耶無耶のうちに財布を握られた形になった俺は、本当に必要最小限の物資をその場で購入することになったのだった。

 結果――。


 ・布の服(低品質・上下)(10×2=20ポイント)

 ・コットンのシャツ(5×2=10ポイント)

 ・トランクス(安物)(5×4=20ポイント)

 ・深底鍋(安物)(15ポイント)

 ・テフロン加工フライパン(15ポイント)

 ・万能包丁(安物)(7ポイント)

 ・まな板(フッ素加工)(5ポイント)

 ・食器各種(計13ポイント)


 合計105ポイントを使用したことになり、ものの見事に赤字になった。


「……まあ、これでお昼からは食事の材料費のみになりますので、今後に期待ですね」

 ポイントを使ったことに忸怩たる表情で、俺に対してというよりも自分に向かって言い聞かせるようにそう弁明をするヤミ。


「じゃあ昼飯に乞うご期待……ってことで、今朝確認したかった『Privilege』の項目にあるガチャについて聞いてもいいかな?」

「あ、はい。『特典Privilege』ですね」


 気分転換のために話を変えると、ヤミも心得たもので、本来の自分の業務……表情で、テーブル越しに姿勢を正した。


「おそらくは見当がついているかと思われますが、一般的なゲームのガチャと同じです。これを使用することで、『レアリティ☆☆☆以上魔物ガチャ(1/1)』であれば、ランダムで☆3以上の魔物を一度だけ召喚可能となります。『装備ガチャ』の方はその名の通り、装備品をランダムで当てることができるものです」

「ふーん? ちなみにレアリティって☆幾つまであるんだ?」

「最高が☆☆☆☆☆☆☆☆の☆8ですね。このレベルの魔物を配下にする場合は、最低でもポイントで2,000万は必要になります」

「ほーっ……ってことは、このガチャで2,000万ポイントの魔物を引き当てることも」

「可能性としてはありますが、なにしろガチャですので確率はレアリティが上がるごとに少なくなりますよ。『レアリティ☆☆☆☆☆以上魔物ガチャ』で☆5の魔物が当たる確率が74.5%。☆6が17.5%。☆7が7.95%。☆8で0.05%ですね」


 ☆4以上確定ガチャでもそんなものか。なら☆3以上のガチャでは言わずもがなだろう。


「それと言うまでもありませんが、上位の魔族・魔物は知能とプライドが高いですので、召喚したところでアカシャ様の命令に従うかどうか不明です。まかり間違って火の上位精霊イフリート始祖魔竜エンシェントドラゴンなどが召喚された場合は、おそらく制御不能でしょう。あと真祖級吸血鬼や熾天使セラフィムなどの場合は、アカシャ様が逆に屈服させられる危険性があります」

「怖いこと言うなよ!」

「そのくらい気をつけてくださいと言う話です。まあ、そんな神話の世界の住人が召喚されるなど、まず滅多にありませんから大丈夫だとは思いますが」


 全然気休めにならない慰めを受けた。


「そうですね。とりあえず装備ガチャで装備を整えて、多少は扱いやすそうな『レアリティ☆☆☆以上魔物ガチャ』を引いてみてはいかがでしょうか?」

「それが無難かな……」


 ヤミの言葉に従ってまずは『レアリティ☆☆☆以上装備ガチャ』を引いてみた。

 ダンジョンマスターの椅子に座ったまま、頭の中で『レアリティ☆☆☆以上装備ガチャ』をタップする。

 するとテーブルの上に魔法陣が浮かんで――。


「……人形?」

 ポンと消えたかと思うと、素朴な土人形が一個転がっていた。

 ついでにステータスの『Privilege』の項目から、『レアリティ☆☆☆以上装備ガチャ(1/1)[初日プレオープン特典]』の表示も消えている。

 してみると、これが装備品で間違いないのだろうけれど……。


「レアリティ☆☆☆☆『身代わりの人形』。持っていると一度だけ死んでも生き返ることができる人形です。そこそこ良いものですね」

「あー……なるほど」

 ありっちゃありかな? 命のスペアみたいなものだし、いま現在ろくな戦闘訓練もしていないし、使える魔法も穴掘りくらいなので、現在の俺にはピッタリと言えばピッタリだろう。


 ヤミに促されて、片手で握れるくらいの大きさのそれを掴んで、ズボンの左のポケットに入れておいた。

 なんでも常に肌身離さず持っていないと効果がないらしい。


「……さて、ではいよいよ『レアリティ☆☆☆以上魔物ガチャ』を使うか。この調子だとせいぜい☆3か4だろうけど、そのあたりでお薦めの魔物っているかな?」

「そうですね……☆4の『スケルトン・コマンダー』あたりであれば、召喚者の命に確実に従いますし、低位のスケルトンと違ってある程度の自意識と戦闘能力を持ち、また低位のスケルトンを統率できますのでお勧めです。あと単体の戦闘力であれば同じ☆4のゴーレム系でしょうね」

「なるほど。無機物系がアタリってわけか」


 下手に自己主張が激しい奴を当てたら目も当てられないってわけだ。


「じゃあ、まあその系統がでることを祈って――『レアリティ☆☆☆以上魔物ガチャ』Go!」

 頭の中でガチャをタップする。

 するとテーブルの上ではなく、床の上に魔法陣が展開され――装備ガチャの魔法陣より二回りはでかい――そこから虹色の影がせりあがってきたかと思うと、

「おーっほほほほほほっ! この高貴にして美しいわらわ召喚よびだしたのは、どこのタワケであるか!?」

 魔法陣が消えたそこには、長い水色の髪にイグサの冠をかぶり、やたらでかい水瓶に寄り掛かる姿勢をした、豊満な肉体に薄いケープのような衣装を羽織っただけの、やたら高慢そうな16~17歳ほどの美少女が高笑いしていた。


「なんとも辛気臭い部屋にみすぼらしいおのこ。乳臭い小娘であるか」

 小ばかにしたように鼻を鳴らす美少女。


「――レアリティ☆☆☆☆☆《水の神霊ナ―イアス》ですね」

 ポツリと呟いたヤミの説明を聞いて、

「……ハズレか……」

 俺はがっくりと肩を落とした。


「な、なんじゃ、その態度は!? というか、誰がハズレであるか!!」

 途端、目くじらを立てる《水の神霊ナ―イアス》。

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