第3話
――翌日、昼休み。
『
なぜ誰も奴に触れないのだろう。不気味だから関わりたくないだけか。
――さて。
どうせあのヘタレは何もできないのだから、一つ助け舟を出してやるとするか。
「そういえばさ~。前に美咲が言ってた、流行ってるっていうラノベ……『NAO』、だっけ~?」
先日同様、棒読みで声高らかに言い放つ。
すると「『MAO』だよ!」という美咲の声に、「『MAO』の事か?」とヘタレボイスが重なる。
ありゃ、タイトル間違えたか。そういえば『マジック・アート……なんちゃら』って正式名だった気がする――……ってこのバカ、一瞬でこの距離まで詰めてきたのか。こわっ。
それはともかくとして、一発で釣られてくれるとは嬉しい誤算だ。バカはチョロくって助かるね。この僥倖、逃すまい。
「なーに、晴人。アンタも知ってるの?」
「当然だ。その作品は特に気に入ってるからな」
「は、晴人くんって……ラノベ、好きだったの?」
美咲は興奮を抑えきれない様子で、晴人に詰め寄る。その顔を直視できないヘタレ野郎は、どもりつつも何とか答えた。
「あ、ああ。主にはファンタジー物が好みだが、ラノベなら大体何でも読むぞ」
「そ……っ、そうなんだぁ……! うれしいな、ラノベ好き仲間がこんなに近くにいたなんて……!」
ぱぁぁぁっと目を輝かせた美咲は、何を血迷ったのか奴の手をぎゅっと握りしめた。
「――っ!?」
「あっ……わ、わわっ!? ご、ごめんねいきなり……!」
口を無様にもパクパクさせながら
そして晴人以上に赤くなり、両手を頬に当てて
……愛すべき我が親友よ、そりゃあかん。晴人でなくても悩殺されてしまうよ。
されたのがもし私だったら……【ピー音と共に自主規制】。
しっかし、どうしようこの状況。片や
うーんと唸りつつも、猫を観察し癒される事に
未だ赤面している美咲が石像の顔を見つめる。おずおずと、しかし果敢にも口を開いた。
「そ、そのぅ……晴人くんのオススメとか、あったら……、教えてくれる、かな……?」
「あっ……ああ! もちろんだ!」
……このヘタレめが。結局アンタはろくな事してないじゃないか。
美咲はよく頑張ったね。その勇気を称えて、後でアイスでも
◇
〔よーうアイリス。今日もそのキャラは可愛いな!〕
わざわざ『そのキャラは』と言うのが何ともこの相方様らしい。別に悪い気はしないから良いけど。
〔えらく上機嫌だね。何か良いことでもあった?〕
〔まあな。例の女子と良い感じになれたんだよ〕
〔おー。それはよかったね、おめでとう!〕
ハイハイ、ヨカタデスネー。
〔お前がくれた助言を活かしてな。男らしくビシっと決めてやった〕
ふぅーん。へぇー。ソーナノカー。
〔すっごいなぁ。さぞカッコよかったんだろーなぁ〕
〔そう褒めるな、照れる〕
『皮肉』ってご存知ですか、おばかちゃん。
知らないですよね、知ってます。
まっ、何とかこれで肩の荷が降りそうで安心したよ。
告白まではどのくらいかかるかな。できれば早いとこくっついてくんないかなぁ。
――じゃないと、私も……さ。
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