第2話
――次の日の昼休み。
例によって性懲りもなく奴がきた。寸分違わぬ、堂に入った不審者っぷりを拝ませてくださりやがる。
私は頭痛を堪えながらも、授業中に七秒程度で考えた作戦を決行した。
「あ~! そーいえばわたしぃ~、せんせーによばれてるんだったぁ~!」
棒読みでわざとらしく、晴人にも聞こえるよう声高らかに宣言する。
「そーゆーことだからぁ、ごっめんねぇ美咲。お昼ごはん、先に食べてていいからね」
「う、うん。行ってらっしゃい、莉香ちゃん」
ぱたぱたと退室し、一度晴人の視線から外れてから……即座に引き返す。
念の為に物陰に隠れるが、どうせ奴は美咲の事しか目に入ってないし、隠れ方がどんなにお粗末でも問題ない。
どこぞのスパイよろしく、手鏡を用いて教室内の様子もばっちり押さえる。
(さぁ……。しかと見届けさせて頂きますよ、お二方――!)
……こそこそ。
――……ちら。
ちらっ……こそ、こそ……。
――……ちらり。
こそっ……ちらり。こそこそ……ちらっ、ちらっ。
――…………ちら、ちらっ。……かぁぁぁ~~。
…………ごんっ。
鈍い音が響いた。何を隠そう、私が壁に頭を打ち付けた音だ。
(なんっっっにも! 変わってねぇじゃねーですかっ、あんっのヘタレぇぇえええッ!?
っていうか美咲かわいい! じゃなくってっ、アンタも気付いてんだったら目が合ったぐらいで顔真っ赤にして俯いてないで可愛すぎぃ……だから違くってえぁぁあああっ!)
ごんごんごんごん。
廊下を歩く人達の目に映る私は、おそらく晴人以上の不審者と化してしまっているのだろう。
散々打ち付け、息を切らし肩を大きく上下させ……ようやく平静を取り戻し始めた私は、すっかり赤くなってしまったであろう額を
うん。戻ってお昼ごはん食べよ。
◇
――その夜。
ゲームに繋いだ私は、早急にハルトくんに問い質す。
〔で。今日はどうだったの?〕
〔いや……〕
〔もしかしてさ、声も掛けられなかったんじゃないの?〕
〔な、なぜわかる? お前、まさか……〕
……まずい、踏み込み過ぎたか?
よもやこのバカに感づかれるような事もないだろうと高を
〔ついさっき呟いたのをもう見たのか? さすがは俺の相方でありファンだな〕
バカでよかった。
っていうかSNSに恋の悩み書き込むってなんだよ。女子か。
〔なあ。女子に声をかけるのって、どうすればいいんだ……?〕
〔んんー。共通の趣味とかあれば手っ取り早いんだろうけど~〕
〔趣味か……ゲームの話題でいけるか?〕
〔ゲームって、キミはネトゲ……それもMMORPGばっかだろう。普通の女の子はあんまり興味持ってくれない
〔だがアイリスはこうしてプレイして……っと、そうか。お前はネカマだもんな〕
〔……ソダネー〕
『ネカマ』――リアルの性別は男なのに、ネットでは自分は女だと偽っている『ネット上のオカマ』の俗称だ。
以前からこのバカは、私のキャラ――『アイリス』のことを『ネカマ』だと思い込んでいた。なぜなのかは永遠の謎である。
そう思われてたところで別段支障がある訳でもないし、訂正するのも面倒臭いのでスルーをするー。……何でもないです、ゴメンナサイ。
〔その子もソシャゲならやってると思うけど、そっちはキミがやらないしなぁ〕
〔だな。ああいうのはどうも性に合わん〕
〔んー。それよりも、本はどうだろ。漫画はあんまりだけど、ライトノベルとかだったら結構読んでるはずだよ〕
発言してから、これまた際どいことを言ってしまったかなと若干焦る。
でもこのバカなら大丈夫だろう……と思っていたら。
〔アイリス……お前、ずいぶん詳しいな。まさか――〕
〔えっ……〕
……さすがに侮りすぎたか?
マズったな、どう誤魔化そう。一体どこまで感付いてしまったのか――
〔お前、本当はネカマじゃないのか?〕
バカでよかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます