僕は魔法の限界を知った。

黒崎エノ

僕は魔法の限界を知った。

憎たらしいほど広がる綺麗な青空。


そんな日に僕は都内にある廃ビルの屋上に立っていた。


特別用があるわけじゃないし、 わざわざ空を見に来るほど暇している訳でもない。


強いて言うなら「逃げて来た」という言葉が当てはまるだろうか。


そうだ、僕は逃げて来たのだ。

きらきらと輝いている世界だったものから僕は逃げてきた。


正直、高校生になるともっと自由に生きれるようになると思ってたし楽しくなると思った。


だが、僕の妄想とは反対に現実は厳しかった。

人に溢れかえっていてこんな廃ビルまで来ないと息も吸えないような窮屈な世界に押し込められている。



子供の頃、幼馴染とふざけながら言っていた「魔法」なんて言葉も今では仕事をしていない。


愛も希望も、奇跡も神様も。

どの言葉も僕の中にある何かを満たしてくれない。


どの言葉も足りないんだ。


むしろ「いつか」とか「もしも」

そんな不確定な言葉の方がよっぽどなにかを残してくれているような感覚がする。


それでもどんな言葉もしっくりこない。満たされない。



僕は不安定で不確定だ。


少しつつけば倒れてしまう。

例えるなら真ん丸なボールの上に乗る卵。


いつの時代か誰かが世界は卵だと言った。

僕の世界はつつけば落ちて壊れてしまう。


中身は誰かに食べられるわけではなく、すぐに処理されてしまうのだろう。


世界はそんな僕のクローンが何人もいる。


前向きに考えようとしても、すぐに悲観的な結論に行き着く。


どうにかしなきゃな、なんて何万回も思っている。


でもすぐにどうにかできるならもうやっている。と思ってしまう。



何度も何度も言い訳をしては、どこかに逃げ道はないかと探してしまう。


子供の頃には輝いていた世界がやけに澱んで見える。


それは他の人が濁らしているのか。

それとも自分の目が濁ってしまったのか。


僕は今日も自分の何かを満たしてくれる言葉を探しに空を仰いだ。


魔法なんてちっぽけな言葉じゃなく、空虚な自分を満たしてくれる万能な言葉を。






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