一番長い最後の5分間
神山 寝小
再会までの五分間
「お父さんいつ来るの?」
隣からほんわかとした可愛らしい声がした。横を向けばまだ幼い顔の私の娘。
「予定だとあと3分後には来るわよ」
それは自分の希望を兼ねたものだった。
正直なところ帰ってくるのかさえわからない。それでもきっと帰ってくる、そう期待していた故の発言だった。
「お土産あるかな?」
再び娘が質問を投げ掛けてくる。
「さぁ、あるといいわね」
気がつけばそんな風に返していたが、実際のところ自分の頭のなかは夫との再会のビジョンが反芻していて娘の言葉を考えている余裕なんてなくなっていた。
10秒20秒30秒、気がつけば3分を過ぎていた。
"もしかしたら"なんてことを考えると真っ白になり周りのことが見えなくなってしまっていた。
数秒たって娘の気配がないことに気がつき辺りを見渡すと完全に見失っていた。
混乱していた頭が急に冷静になって自分の失態に気がつきとにかく娘を探さなくてはと急いで荷物をまとめていた。
突然肩をトントンと叩かれると同時に聞き慣れた一番聞きたかった声がした。
「おい、大丈夫か?」
正直彼以上に心強いものはなかった。
そして娘は夫の背中におぶられておりこれ以上心配する必要のなくなった私は今まで保っていた緊張がプツンと切れてしまったようで涙が溢れに溢れて出てきた。
「今まで辛かったな、すまなかった」
とやはり安心する声で言うと私を優しく抱擁した。
私は彼に言わなくてはならないことがあることに気がつき少しだけ強引に夫のもとを離れいった。
「おかえりなさい」
「ああ、ただいま」
正直私が今まで生きてきたなかで一番長く感じた夫に会うまでの最後の5分間であった。
一番長い最後の5分間 神山 寝小 @N_Kamiyama
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