第3話

「わからない…?自分の名前が…?」


恐る恐る聞くと

彼女は曖昧な笑顔を浮かべた


そんな彼女の様子を見て

不思議に思う


「…えと……地元の子?」


その問いにも相変わらず曖昧な笑顔


「そんな感じ…かな……?」



地元の子ならおばあちゃんか妹に聞けばわかるだろう。

彼女がどこの、誰なのか。


「ここで何をしてたの?」


「空を……見てた。」


「……空?」


そう言われて見上げた空は

いつの間にか山が太陽を招き入れようとしていた


「…もう、夕方か……」


「そうだね…さとるくん帰らなくて大丈夫?」


彼女は僕の家のことを心配してくれたようで

そう言われて帰るという考えが現れた


「そうか……帰らなきゃなのか。」


そう呟いて彼女を見る


橙色の夕日をバックにした彼女は

初めて見た瞬間とはまた違う雰囲気で

胸の奥がキュッと締められた


「また……会えない?」


言葉が零れた

その言葉を聞いて彼女は少し驚いたように目を見開く

そして笑顔で頷いた


「うん。明日も、そこの公園にいる」


明日も会える


そう考えると飛び跳ねたくなった

その衝動を抑えて笑顔を浮かべる


「じゃあ、また明日」


「また明日」


そう言って手を振る彼女

彼女も、僕と同じように明日会えることを楽しみにしてくれたらいいのにな



この田舎に来てはじめて

楽しみというものができた




あれだけ気にしていたケータイの電波も

この頃にはすっかり頭になかった

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