第五章

 多分、いや、きっと無理。けど、ここで退いたら、一生後悔すると、僕は分かっていた。

 「僕は、残るよ」

 「愚か者か?」

 かろうじて英語で言われた罵倒は、僕を妨げられない。たとえ、彼女自身であろうとも、僕はもう退かない。

 「そうかもしれない。でも、残るって決めたんだ。君と一緒にいるよ」

 「足手まといだ」

 「知ってる」

 胸ぐらをつかまれる。僕は、笑った。

 「何がおかしい」

 「初めて会ったときも、こうされたな、って」

 

 香港にはシグナル8、という上から二番目の警報が出ていた。日本で言うところの台風がやってきているのだ。

 こんな暴風の中では、歩くことも難しい。でも、この雨は、彼らが僕らを見つけることも困難にしているはずだった。

 「できることは少ないけれど、やれることが無いわけじゃない」

 「なにができると言うんだ」

 憤る彼女に笑ってみせる。

 「君との会話だって、少しはマシになった」

 「(※サンの返答)」


 (※次回、ここから)

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