第三章 1 feat.レトリック

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「この事件は一体なんなんだ…」


 結局、ユナさんから他の情報は聞き出せず、僕とシャルは村の宿屋に泊まることとなった。


「はぁ…ほんっと、あの女はどこか怪しいと思ってたんだけれども…こうも豹変されると色々裏切られた気分だわ…」


 確かに、シャルの言う通りだ。あれだけ楽しそうにしていた雰囲気が全部演技だったと思うと、どこかやるせない。

 しかし、当面の問題はそこではない。


「しかもほかの宿屋は全部埋まっていて、空いてる宿がこんなボロ屋なんて…」


 そう、空きが無かったのだ。仕方の無いことなんだこれは。そうだそうだこれは仕方がない。


「にしても狭い部屋ねぇ。空いてる部屋が1番広い部屋って聞いてたんだけど、どこがよって話。これならまだあなたが住んでる街の宿のほうが広いわ。」


 確かに狭い。見積もって見ても縦横5mちょっとが限界だろう。完全に旅人か観光客が一泊するためだけの仕様なのだろう。


 しかし、ツインベッド1つだけというのは如何なるものだろうか。


「ちょっと、さっきから私の話聞いてる?」


 考え事をしていると、シャルが不満気な顔でこちらを覗いてきた。怒り気味な顔も整っていて可愛らしい。こんな女性に無関心だったなんて、魔術の副作用というのは強力なんだなと再認識する。

 まぁ、今夜ぐらいはその副作用が欲しいと思ってしまうぐらいなのだが。


「え?あ、あぁ…たしかに狭すぎるというのはあるな。うん。」


「本当よ!おかげで床は荷物でいっぱいよ!ゴミ屋敷同然じゃない!」


 そうなのだ。女性には紳士的な対応をしている僕は、即座にシャルをベッドで寝かせて、自分は床に寝るという方法を思いついた。

 しかし、このような状況じゃ流石に難しいとしか言いようがない。最悪外で寝るという方法もあるのだが…


「あ、そんなことよりあなたに聞きたいことがあったのよ」


 僕が今夜の就寝場所に頭を悩ませていると、シャルがそんなことを言ってきた。


「なんだい?」


 僕は荷物整理をしている手を止め、シャルの方へ向く。

 シャルはベッドの上に足を前に組んで座っている。そして僕は荷物整理をしていたため床に座ってシャルに体を向けている。

 この構図だけ見るとなんだか主従関係みたいだな、等とろくでもないことを考えながら、シャルの言葉を聞く。


「あなた、あの巨人だかゴーレムだかよく分からない巨体の腕を切り飛ばしたあの剣、あれってどこから取り出したの?」


「け、剣?なんのことだ?」


「…あなた、薄々思ってたんだけど自身の理解が足りてなさすぎじゃない?」


「な…」


 そう言われても、身に覚えがないものは本当に無いのだ。確かに、魔術が勝手に使えたりとかは未だ謎のままだが…


「最初、あなたの性格が変わったり記憶が無くなったりしたのは魔術の副作用だと思ってたの。でも、あの謎の剣が出てきた時からあなたの性格は豹変し、魔力も爆発的に上昇したの。」


 …ほんと、僕って一体なんなんだろう。そんなとんでも能力を持ってるなんて…しかも性格が豹変する?僕の知らない僕とか1番恐ろしいなぁ。なにをしでかすかわからない…


「だから、あの剣になにか理由があるんじゃないかって思って聞いたんだけど…本当に知らないみたいね。」


「な、なんでそんなことを今聞いたんだ?」


「だってそもそも自分の能力を把握していないなんて意味わかんないわ。それに、他人のユニークタレントを聞くのは御法度だしね。」


「ゆ、ゆにーくたれんと?」


 聞き覚えのない単語に思わず聞き返してしまう。直訳すると、唯一の才能という意味だろうか…?


「あーもう!説明疲れた!私は体を洗ってくるわ!ころなんちゃらでの戦いで汚れが酷いの!」


 …俗に言う逆ギレというものをされてしまった。洗ってくるということは、この宿唯一の施設、風呂場という所に行くのだろう。なんでも中心街の貴族層が頻繁に使用しているらしい施設を真似したらしい。しかし、予想以上に費用が嵩んでしまい、こんなに部屋が狭い訳だが。シャルは体を洗えるという点を見て、多少の窮屈を妥協したのだ。風呂場に向かう足取りが明るいのが見てわかる。

だが、ひとつだけ注意はしておかないと。


「おいシャル!行ってくるのはいいが、この時間帯は例の被害が出ている時間だ!警戒は怠るなよ!」


 そう言うと、


「わかってるわ!なんなら倒してきてあげるから!」


 と、なんとも頼もしい答えが返ってきた。多少の不安は残るが、シャルのことだから大丈夫だろう。


「…多分帰ってきたら寝てしまうだろうな…まぁ、説明は明日にでもしてもらうか」


そう考え、外で寝る準備を始めようかと思った瞬間


「キャー!」


 女性の叫び声が聞こえた。シャルではない。シャルが向かっていった方向とは真逆から聞こえてきた。つまりこの声は…


「ちっ!依頼された僕らがいる時に被害者が増えたんじゃ洒落にならないぞ!」


 僕は準備をやめ、宿の3階の窓から飛び降りた。

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