第三章 2 feat.cooler

2

「スキル《身体強化》」


 3階から飛び降りてもなんとかなるかもしれないが、これが無いと不安だ。


 僕はなるべく音を立てないように注意して着地し、悲鳴の聞こえた方へ向かう。


 これまでも忽然といなくなっているのだ。悲鳴は僕らと同じ3階から聞こえたが、僕は勘に従って飛び降りた。

 普通なら人を1人背負って3階から飛び降りるなんて思わない。

 だからこそ有り得ると思ったのだ。


 僕の勘はよく当たる。

 案の定何かを背負った人影がかなりの速度で走っているのを見つけた。


 宿の裏手の雑木林。地面には落ち葉が積もり、少なからず足音はするはずなのに、それの周りだけまるで音が消えたかのように音を立てずに走っている。


 僕は《身体強化》の恩恵で徐々に間をつめる。


「スキル《隠密》、スキル《峰打ち》」


 黒刀を手に持ち、暗闇を駆ける人影を刀の峰で打った。


 人影はドサリとその場に崩れ、背負っていたものを地面に投げ出す。


 近づくと、両方からゴーレム特有の不思議な感じがした。

 この不思議な感じは僕にしか分からないらしいが、今まで間違えたことはない。


 とりあえず2体とも拘束してから揺り起こす。


「ん……な!貴様は何者だ!」


 走ってた方のゴーレムが誰何してきたので誠実な対応をする。


「僕はニグルム。勇者と呼ばれたりする。ある人からの依頼で連続誘拐事件の調査をしているけど……依頼主に対して少し不信感を抱いている。君が素直に話してくれるなら見逃しても良い」


「そのようなことが信じられるか!……と言いたいところだが……」


 そう言ってゴーレムは考え込む素振りを見せ、覚悟を決めた顔になった……って、おい!


 ダンジョンのゴーレムが追い詰められた時に使う自爆技の予兆を感じた。


「スキル《魔力吸収》」


 僕は慌てて黒刀をゴーレムに当て、このスキルを発動する。すると、自爆の予兆である魔力の暴走が収まった。


「ふむ……やはり私がゴーレムだと気づいた上で自爆を防ぐ術すら持っていたか……すまない。勝手なことをしてしまった。お詫びと言っては何だが、全て正直に話す」


 おぉ、図らずも僕がその気になればどうとでも出来たと勘違いしてくれた。

 でもなんでだろ?自爆を防げても、拷問にすら耐えられたらお手上げなんだけど……。


「そうだな……この女もゴーレムだということは気づいているだろう?……我らゴーレムは元は人間だった。何千年も昔のな。我らは地中で静かに暮らしていたのだが、最近現代人が侵入してくることが多くなってなぁ……それでも宝を少々分け与えれば帰って行った。……それが悪かったのだろうな。人はどんどん入ってきて、我らも魂を移し替えるに当たって戦闘力も十全につけたゴーレムの性能を発揮させざるを得なかった。現代人がそれを見て劣化模倣するだけなら良かったのだが、知恵を絞って我らを捕獲し、核をいじって心を作り替えたのだ。俺はそんな同胞の体だけでもと思って毎晩ここに来てたんだよ……」


 ふむ……些か衝撃的な内容もあるが、つまり、ゴーレムに心を移し替えた古代人に対して冒涜的な行為をしたのがユナさん達なのかな?


 じゃあユナさんが攫われたって言ってた従業員はみんなゴーレム……これだけ事件が続いていてまだいるって……どんなけゴーレム捕獲してんだよ。


「なるほど……さっき逃がしてあげるって言ったけどさ、折角だから手を組まない?」


「ほぅ……どういうことだ?」


 お、ちょうど女性型ゴーレムの方も起きたみたいだ。

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