第二章 3 feat.cooler
3
ユナさんが指差したのはスロットだった。
スロットへと向かう足取りは軽く、そのいきいきとした姿からは、先程の憔悴ぶりなど微塵も感じられない。
むっ……ユナさん、可愛い顔してスロット中毒なのか……。
しかし、常に恐怖に怯えている現状で、人間としての活力を取り戻せる現実逃避の手段があるのはまだマシなのだろう。
ただ、結局は現実逃避なので何の解決にもならないのだが……。
「この台よく当たるんですよね」
そういってユナさんは早速スロットを回し始めた。暫く見ていると、確かによく当たっている。が、しばらくすると当たりが目減りしてきた。それでもユナさんのやる 気を完全に無くさない程度には当たっており、実に巧妙だと言える。
「はぁ、取り戻せないかぁー……あ、ニグルムさんずっといたんですか?何かやって来て良いですよ。私まだ粘りますし」
ゆ、ユナさんはまだつぎこむらしい。相当な額だと思うのだが、借金でもしているのだろうか?
いや、よく見てみれば、普通だと思っていた服はかなり良い生地を使っているようだ。
別に隠していた訳では無いだろうが、かなり裕福なようだ。
ここイルール村は、最近の田舎ブームで富裕層の別荘が立ち並び、特需のような状態にある。おそらくユナさんは、観光業で成功したのだろう。でなければこんなにた くさんのお金を躊躇なくつぎこめない。
でも、やはり不思議なのは金持ちの別荘地なのに、軍が捜査に力を入れいなかったことである。
当然ここに別荘を持っている人の中には、政治的な権力を持つものもおり、人が消えるという物騒な噂を放置するわけがないのだ。
でもまぁ、金はあっても困るものじゃない。ユナさんに見て回れと言われたし、稼げそうなもので適当に稼いでみよう。
「赤の9」
グルグルと回るボールの速度、回転、摩擦、湿度、温度、空気の対流など全てを見切り、未来位置を予測して僕は告げる。
その直後のベット終了の合図から少しして、ボールがルーレットのあるポケットに落ちる。
そしてそれは――。
「あ、赤の9……!」
一目賭け成功だ。配当は36倍。
賭けた金は、所持金のおよそ半分であるミスリル貨5枚。
ミスリル貨1枚100万ウルで、パンの木のものでない、小麦粉から作るパン1斤200ウルだからその価値は察してくれ。
ちなみに、これだけ儲けると次はディーラーが本気を出して、ボールが変態軌道を描くので、そうなると僕でも外しかねない。
賭け事に深追いは禁物である。
未だに現実が飲み込めていないディーラーから1億8000万ウル分のチップを貰い受け、僕はディーラーに再戦を挑まれる前にそそくさと逃げ出すのだった。
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