第二章 4 feat.はるさめ

4

 僕は店内をくまなく見ていると、面白い賭け事を見つけた。

「コロシ……アム……?」

 僕が看板を眺めていると、シャルが後ろから看板に書かれている文字を声に出して読んだ。

「人が猛獣と戦ったりするところじゃないかな」

 僕も詳しくは知らないが、イタリアのコロッセオで行われていたようなことをここでやるのだろう。

「面白そうじゃない。一緒に行きましょ」

 シャルはやや強引に僕の腕を引っ張った。

「お、おい……」


 コロシアムは屋根がなく、また円形で広く、まさにコロッセオっていう感じだ。

 ドスン……!!

 僕とシャルがコロシアムに入ると、急に入口に鉄格子が降り、鼓膜が破れるほどの歓声が沸いた。

「え……どうなってるの……?」

 シャルは状況が理解できないようで、僕に不安そうな声で聞いてきた。

「多分……僕たちは見世物にされているんだと思う」

 というのも、別に適当に言ったわけではない。

 というか、今の状況を見れば誰だってわかることだろう。

 ただその場に突っ立っていると、いきなりアナウンスが流れた。

「Ladies and gentlemen, boys and girls!!」

 あまりにも発音がよく、普段から英語なんて聞いていない僕にとってはあの一瞬で聞き取るのは困難だった。

「お待たせしました!今日のショーは剣士と魔術師VS東の巨人族の王です!」

 なんで――。

 僕は見れば剣士だとわかるが、シャルのようなTシャツにショートパンツの女性はどこをどう見ても一般人にしか見えない。

 ましてや、まだここに従業員にも身分等を明かしていないというのに……。

 深く考え込んでいると、突然地響きがした。

 反射的に顔を上げると、数十メートル先に僕の身長の数倍はある巨人が立っていた。

「あれが……東の巨人の王……?」

 シャルは少し怯えたように声を発した。

 いや、完全に怖がっている。

 シャルの脚はがくがく震え、身体は硬直している。

 僕はそっとシャルの手を握った。

「ありがと。温かいのね、あなたの手。もう大丈夫だから、始めるわよ」

 さっきまでツンツンしていた彼女は何処へやら、素直に礼を言ってきた。

 僕は驚いて目を見開いていたが、アナウンサーの声によって引き戻された。

「イッツショータイム!!」

 その合図とともに巨人が走ってきた。

 僕の手は何故か慣れたように首筋近くへと勝手に動いていった。

 ――何もないのに。

 そう思っても手は止まらない。

 ある程度までいったとき、手に固い感触とずっしりとした重みが加わった。

 剣だ……!

 なぜ背にさっきまでなかった剣があるのかはわからないが、ひとまずその剣を引き抜いた。

 赤黒く不気味に光る剣。

 どこかで見た、懐かしい剣。

 僕はそれを中段に構え、地面を蹴った。

「シャルっ!援護頼む!」

「わかった!」

「It's the beginning of the slaughter……」

 ひとりでに声が出た。

 幼いころよく耳にした言葉。

 もう誰のものかはわからないが、思い出したくなかったもの……。

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