第二章 1 feat.はるさめ
1
僕は女とユナさん、3人で村に向かった。
「ねぇ、ニグルム。なんか違和感あるような気がしない?」
村に向かう馬車に揺られていると、突然女が僕に話しかけてきた。
女の目線からして、どうやらユナさんのことについてらしい。
「そうか?僕はなんとも……」
2人の話題にされているユナさんは何も聞こえていないようで、ずっと景色を見ている。
「気付かなかった?あの人から、あなたより多くの妖気が感じ取れたわ……」
「妖気?なんだそれ」
妖怪のことか?
だとしたら僕は違うぞ……。
とても疑問に思っていると、女が妖気について話をしてくれた。
「妖気とは、魔術師の中での専門用語みたいな言葉なんだけど、種類は大きく2つに分かれるの。一つはニグルムから感じ取れるような身体の奥深くに眠っている魔力。もう一つは、怪物、獣人から感じ取れるような険悪な気配のこと」
「それで、ユナさんからはそれが感じ取れると」
僕は全く分からないが、魔術師にとって妖気があるかないかは大きな違いなのだろう。
問題は、その妖気が善悪どちらかということだ。
「ユナは限りなく悪い妖気に近かった……。もしかしたら……彼女が元凶の可能性も……」
「いやいや……」
魔術師が獣人の類の妖気を感じ取ったからといって、ユナさんがこの事件の犯人だとは言い難い。
ただ、やんわり否定したものの、彼女は絶対違うとは言えない。
彼女も容疑者の一人として捜査した方がいいだろう。
そうしている間にイルール村に着いた。
村の周りは石で作られた壁に囲まれていた。
毎晩事件が起きているとは思えないほど活気づいていた。
ストリートライブをやっている人、大きい声を出して客の興味を引く八百屋や魚屋など。
僕のイメージは村人全員が家にこもって、静かなゴーストタウンだったのだが……。
「意外と……賑やかな村なんですね……」
「ええ。でも、夜になるとこの賑やかさは何処へやら、一気にゴーストタウン化してしまうんです」
こんなに賑やかな村が一瞬で静かになるとは。
僕はこのイルール村に興味が湧いてきた。
「それじゃ、夜になるまで時間を潰しましょうか」
「なあ、ニグルムー。どこかにパーっと飲みに行かねーか?」
女はジョッキでごくごく飲むジェスチャーをして誘ってきた。
「あ!いいですね、それ♪」
さっきまで静かだったユナさんが女の意見に強く同意してきた。
僕はあまり乗り気じゃなかったが、二人がしつこく言うため、ユナさんの提案でカジノに行くことにした。
僕はこのピュアな感じのする村にカジノがあるんだ、と少し驚いた。
村の唯一の出入口から歩くこと約10分。
ユナさんの言うカジノに到着した。
それはもう言葉が出ないほどすごいこと。
まるでラスベガスにあるような金属やガラスで作られた建物があった。
「これ……すごいわね……」
女はカジノを前に、言葉が出ないようだった。
「これは、隣の街の会社が建ててくれたの。今では大人達の集いの場となっているの」
ユナさんは得意気に説明をしてくれた。
「さあ!行くぞー!」
女はとてもワクワクした様子で走って建物に入っていった。
中は空調設備が整っていて、とても快適だった。
「お客様、いらっしゃいませ。受付はこちらで行っております」
入口には細長いカウンターがあり、受付嬢が僕らに話しかけてきた。
僕らはカウンターで入館の手続きをした。
僕はカジノに入ったことがないため、何もかもが初体験だった。
僕はニグルム・F・アルフォード、ユナさんはユナ・J・コンテと紙に記入した。
一方、この女は。
"シャル・D・コレット"
これがこの女の名前なのか。
「どうしたのよ?紙なんかまじまじと見て」
僕がぼーっとシャルの書いた紙を見ていると、怪訝そうな顔をして訊ねてきた。
「あ、ああ。いや……」
「ふぅん」
シャルは僕が紙を見ていた理由を知ると、もう興味がなくなったように返事をした。
ただ、未だカジノには興味があるようで……。
手続き完了までの間、とてもソワソワしていた。
そして、数分後。
「お客様、おまたせしました。カジノへようこそ。存分にお楽しみください」
そう言ってドアを開けてくれた。
目の前に広がっているのは、金色に輝く都会の街並み。
「え……?」
外観からは、この建物はこんなに広くなかったはずだ。
それなのに、今目の前の光景は、ニューヨークのように人が多く、車も走っている。
「当館は、魔法により建物のなかを広くしております。全ての建物でギャンブルをお楽しみいただけます。」
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