第一章 6 feat.cooler

6

 女に言われるまま1階へ下りると、ロビーの椅子にぽつんと女性が1人座っていた。


 女性は随分と憔悴している様子で、僕に気が付くと、焦点のきっちり合っていない目で僕に駆け寄ってきた。その足取りは覚束無く、酷く危なげだ。


「あなたが……あなたが勇者様ですね?ど、どうか!どうか私の村をお救い下さい!お願いします!お願いします!」


 女性は、上ずった声でまくし立てると、膝をついて僕の足にすがり付いてきた。


「か、顔を上げて下さい。良いですか?僕は必ずあなたを見捨てません。ですから、落ち着いて、順を追ってことの次第を説明して下さい。良いですね?」


 僕はそう言って、女性を宥めて深呼吸をさせる。そして少ししてから、女性は語り始めた。


 女性の名はユナ。イルール村というここの近くの村に住んでいる。

 村は平和だったが、ある晩牛が1頭いなくなり、村は険悪な雰囲気に。しかし、それが毎晩続き、遂に村の子供までいなくなった。

 そこで、家畜の被害届を受けても動かなかった軍が重い腰を上げたが、兵士が駐在し始めると何も起きなくなり、軍は特に問題はなく、虚言の可能性が高いとして、金だけ取って引き上げ、それから二度とこなかったそうだ。

 しかしその後被害は再発し、村人が1人、また1人と減り続けた。怖くなった彼女は信用できない軍ではなく、人格者として知られる僕のところに助けを求めに来た。


 ここまでが彼女が懸命に語ってくれた内容だ。

 ……というか僕、人格者って評判なんだ。嬉しい。


 しかし……そうだな。それなら僕が村に泊まり込みで調査するべきだろう。


 それにしても軍は何をやっているのだろうか。あれでも市民のため、必死に戦っていた彼らがそこまで杜撰なことをするなんて……。

 どうも腑に落ちないが、ここは僕が出向くしかないか。


 ただ、この女をどうするかだが……。

 そう思って視線を向けると女は、


「ふーん、面白そうじゃん。ついて行ってあげるわよ。行くんでしょ?ニグルムは」


「「なっ……!?」」


 面白そう、という余りに無神経な言いぐさに言葉を失うが、ユナさんはすぐに我に返り、


「あ、あのっ……助けてくれます……か?」


 と、段々と消え入るような声になりつつも尋ねてきた。


 女についてはあとで何とかするとして、まずは最初の依頼人である彼女、ユナさんに誠意を示さねばならないだろう。


「その依頼、勇者の名にかけて、必ず解決して差し上げよう」


 僕は右手を胸に当て、左足を少し後ろに引いたキザなポーズで、そう宣言した。

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