第695話
「では、真田殿。御武運を」
「フォール将軍も・・・。家族の事お願いします」
「うむ」
いよいよ、それぞれの持ち場に向けて出発となった俺達。
フォールは俺から請われると、腰の刀に手を添えながら頷いてくれた。
「父さん・・・」
「母さんを頼んだぞ、刃?」
「ぅ・・・」
絞り出す様に声を漏らし、何とか頷いた刃は・・・。
「父さんも‼︎」
「ん?」
上げて来た顔には、目尻に光るものが見えたが、其れを拭い・・・。
「俺の父さんは世界一なんだ‼︎そう言わせてよね?」
「・・・あぁ」
しっかりと此方を見据えながら告げて来た刃。
俺は静かに淡々と応えてやった。
(気合いは十分入っているが、妙に全身の熱は冷めているんだよなぁ・・・)
ただ、刃にも俺の気合は伝わったらしく、納得した様にフォール達と共にディシプルへと戻って行ったのだった。
「パパ」
「頼んだぞ、凪?」
本当は無茶をせず、いざとなったら逃げ出して欲しいと頼みたかったが、既に秘術継承の儀式も達成した凪。
此処で其れを口にするのは、流石に我が子とはいえ、もう失礼だろう。
「パパ・・・。うん‼︎」
だから、俺は力強く頷いた凪の頭に手を置き、少しでも其の気持ちが落ち着く事を願いながら撫でてやったのだった。
「司」
「ローズ」
ローズが此方へ近付いて来ると、気を遣ったのか、颯の手を引いて離れて行く凪。
「颯」
「お父様?」
「ママと家の事・・・、頼んだぞ?」
「・・・」
「・・・」
俺から掛けられた声に、立ち止まって見つめ合う間は一瞬。
「はい‼︎」
「・・・」
「お父様が戻る迄は、僕が守ってみせます‼︎」
「ありがとう」
力強く応えた颯から視線を外さず、俺は短く礼を告げて、出発の挨拶に代えたのだった。
「・・・」
「・・・」
皆が去った後。
周囲を包んだ静寂に染まる様に、俺もローズも無言になってしまう。
此方を静かに見つめてくれる妻に、決戦の刻迄このまま過ごしても良いかと思ったが・・・。
「子供達の事を頼む」
「・・・」
「ローズ?」
俺の掛けた言葉には応えず、静かに此方を見つめ続けるローズ。
僅かに俯く仕草に、俺が覗き込む様な体勢を取ると・・・。
「司が戻って来る迄ね」
「・・・」
微かな笑みを覗かせながら、そんな事を告げて来たローズは・・・。
「先に颯に言われてしまったけど・・・」
誇らしそうな表情を浮かべて、そう続けたのだった。
「真っ直ぐ、颯なりの足取りで成長してくれたわ」
「ローズのお陰だよ」
颯の成長は本人の日々の努力とローズやグランの教育の賜物。
本人の性質もあるだろうが、積み重ねて来たものが力となり、其処から生まれた先程の言葉や刃への対応。
其れ等を目の当たりにして、俺はローズに感謝しかなかった。
「私は何も・・・。司の背中を追いかけた結果よ」
「そんな事無いさ」
「ううん。颯に取って司の存在は本当に誇りなのよ」
相変わらず俺を立ててくれるローズ。
然し、颯の為にしてやれた事は全くといっていい程無かったし、一緒に過ごしてやれる時間ですら限られていた俺には、其れを誉めて貰える権利は無いだろう。
(出会ってからずっと、俺を認めてくれて、支え続けてくれたからな・・・)
日本に居る時は、家族以外の愛情なんて受ける機会も無かったが、ローズは無条件で受け入れ、信じ続けてくれた。
(其の想いに応える為に努力を続けられたし、此処迄来れたんだ)
「やっぱり、ローズのお陰だよ」
「司・・・」
「行って来るよ・・・」
最後の闘いに、そう続け様とした俺の唇は・・・。
「っ・・・」
「ん」
ローズの重ねられた其れに塞がれたのだった。
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