第685話


「うふふ」


 そんなローズの台詞に、面白そうな笑みを浮かべたアクア。

 その様子に呆れるよりも感心してしまいそうになる俺だったが、流石にローズに悪く其れは出来なかった。


「本当にそっくりよね〜」

「何がですか?」

「貴女と凪ちゃんよ?」

「そうですね。良くそう言って頂いてます」

「勿論、見た目だけじゃなくて、その素直じゃない性格もそっくりよね〜」

「そうでしょうか?司には性格を悪く言われた事は無いので?」


 そう言って俺へと視線を送って来たローズ。


「あ、あぁ、そうかな・・・」


 俺は突然の事に必死に疑問系の口調にならない様に応える。


「尻に敷かれてるわね、司?」

「いや、そんな事無いぞ」

「うふふ。即答しちゃう、そういうところよ」

「別に?事実だからな」

「うふふ、可哀想ね〜。私なら男をちゃんと立ててあげれるのに」


 当然ながらローズに寄った発言をする俺に、アクアは得意気な表情で全くあり得ないであろう事を口にした。


「まるで、私が司を立てていないみたいな口振りですね?」

「うふふ。違うのかしら?」

「私は司の仕事を誇りに思っていますし、決してその邪魔もしないですよ」

「そう?私なら愛する人の隣に立って、その仕事を手伝うわ?」

「それは立ててないと思いますけど?」

「あら?私立てるなんて言ったかしら?私はどんな時も愛する人の側に居て、その全ての願いを叶え、降り掛かる不幸を振り払ってみせるわ」


 アクアはローズからのツッコミに、自身が直前に述べた台詞を忘れたかの様な事を口走る。


(此れがアクアで無ければ正気を疑うところだが、アクアだと納得出来てしまうな・・・)


 決して褒めれるものでは無いが、短い付き合いの中で、アクアという人物はこういう存在なのだと認識している俺。

 然し、流石に勘のいいローズでも、アクアと初対面の状況で、俺と同じ認識を持つ事は難しいらしく、その表情は怒りや困惑が入り交じり、何ともいえない微妙なものになっていた。


「どうしたのかしら?」

「・・・」


 そんなローズの様子に、普通なら自身の発言が支離滅裂である事を理解し、恥ずかしいと思ったり、治そうとしたりするものだが、アクアは本当に訳の分からないといった表情で首を傾げたのだった。


「司?」

「あぁ、こういう奴なんだ。本人に何の悪気も無いし、特に害のある行動をするタイプでも・・・」

「・・・」

「まぁ、余り本気にせずに聞いて貰って良いよ」

「・・・分かったわ」


 完全にアクアを擁護する事が出来なかった俺に、ローズは訝しむ様な表情ながら、その奥に秘めた意味を理解してくれた様で頷いてくれたのだった。


「???」


 そんな俺達のやり取りに、アクアは再び首を傾げたのだった。



「でも、グラッタチェーロ大陸だったか?」

「ん?何それ?」

「・・・ファムートゥの鍵穴があるという大陸だよ」

「ああ・・・。そんな名だったかしら?」

「・・・あぁ」


 ローズとのやり取りの流れで、アクアに余計な事を言わせない様に話を変えた俺。

 然し、アクアは自身の宿命の地の名ですら、まともに覚えておらず、俺は何ともいえない気持ちになった。


「ふっ、余裕だな?」

「ん?もぐもぐ・・・、ごくんっ。まあね」

「勝算は既にあるのか?」

「うふふ、当然でしょう?」


 ブラートからの問い掛けにも、ローストビーフを頰一杯に詰め、何の緊張も感じて無い様子で応えたのだった。


「どんな、作戦なんだ?」

「作戦?無いわよ?」

「・・・おい」

「うふふ、大丈夫よ。ちゃんと、私の役目は果たすから」


 得意気な様子のアクアに不安が全く無い訳でも無いが、此奴の場合は詠唱を完成してしまえば防ぐ術も無いし、その間位はタブラ・ナウティカの兵達が守り切るだろう。


(それに、ルチルも其方に参戦してくれるらしいしな)


 アクアの所にはタブラ・ナウティカ兵と海龍、ヴァダーの交渉済ませているグラッタチェーロ大陸の魔人の協力もあるが、此方から一切の協力者を送らないのも問題があるし、ルチルに協力を頼んだのだった。


「其れに、私にとっては今回の闘いは本番じゃないしね」

「どういう事だ?」

「だって、此の闘いが終わってから、つか・・・」

「あぁ‼︎そうだな、アクアなら大丈夫だろう‼︎」


 余計な事を口にしそうなったアクアの発言を、大きな声を上げて遮った俺。


「司?」

「あぁ、大丈夫だ‼︎」

「そう・・・?」


 流石に不思議そうな表情で此方を見て来たローズに、俺はその肩に手を置き、言葉の勢いだけで納得させる。


「うふふ。分かってるじゃない、司」

「あぁ」


 アクアは俺に褒められた事に納得した様で、新たな食べ物を求めて別のテーブルへと向かったのだった。

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