第684話
「ふ〜ん・・・」
「・・・」
頭の先から爪の先迄自身を観察して来るアクアの不躾な視線。
其れに加えて先程俺が其の名を呼んだ事で何かを察したらしいローズは、無言でその無礼なアクアの態度を許していた。
(ただ、それが一番怖いんだけど・・・)
アンジュとの何時ぞやの打つかり合いや、それ以前に俺との初対面の時の態度から分かる様に、基本的ローズはケンイチからその気の強さが遺伝しているし、瓜二つともいえるリールは、怒ると此のリアタフテ家の中で一番怖い存在なのだ。
(対するアクアは良く言えば人懐っこい性格。悪く言えば初対面の相手だろうと土足で踏み入って行く無神経なタイプだからなぁ)
「なる程ね〜・・・」
「・・・」
「うんうん」
「・・・」
一切の深い思慮は無いと思うが、何かに納得した様に頷いてみせるアクアに、ローズは完全な無表情を貫く。
(流石にローズも一国の王女に礼を欠いた態度を取る事は無いと思うが、アクアが余計な事を口走った場合はその限りでは無いしな)
「・・・」
「ふっ・・・、面白そうな組み合わせだな」
「・・・」
緊張感を持ち二人の様子を見守る俺。
その俺にだけ聞こえる声で、少し離れて様子を見ていたブラートは、中々物騒な事を口にしたのだった。
(まぁ・・・、それでも・・・)
此の場でローズとアクアの紹介をすべきは俺で、いつ迄もそれを行わないのは問題。
俺は意を決して二人の間に進み出たのだった。
「ローズ」
「何かしら?」
「此方はアクア=ファムートゥ様。ファムートゥの秘術の継承者で、タブラ・ナウティカの王女様だ」
「そう」
俺からのアクアの紹介に静かな調子で頷いたローズ。
勿論、ローズはそんなに騒がしい性格では無いし、この態度も不思議なものでは無いのだが、やはり感情を少し抑制する様が見て取れた。
「アクア様」
「な〜に?司ぁ・・・」
「・・・」
「・・・」
対するアクアはというと、俺がローズの紹介の為にその名を呼ぶと、態とらしく媚びた様な艶っぽい声としなだれる様な仕草を魅せ、ローズのルビーの双眸の奥に危険なものを感じた俺は、一瞬の間言葉に詰まってしまった。
「俺の妻のローズ=リアタフテ。リアタフテ家の現当主だ」
「そう・・・。あら?」
此処には四人しか居ないし、其処迄畏る必要も無い為、いつも通りの口調に戻した俺。
アクアは其れには何とも思わなかったらしいが、実に不思議そうな様子を演じながら首を傾げて見せる。
「何だ?」
「リアタフテの秘術の継承者では・・・?」
「・・・」
何か良くないものも感じていたが、雑な対応を示した俺に、良くない意味での期待を裏切らなかったアクア。
パーティー会場で無ければ一喝してやっても良いのだが、流石に其れを行う事も出来ずに、俺は感情を抑えながら、ローズの様子を探った。
「・・・」
ローズとアクアの身分の差は有るが、流石に礼を欠き過ぎているアクアの態度に文句の一つも口にして良いのだが、ローズは一切口を開く仕草を見せなかった。
「ああ。司の娘の凪ちゃんが継承者だったわよね」
「まぁな」
「うふふ」
「・・・」
何も閃いていないアクアは、態とらしく手を突き声を上げ、俺が圧力を掛ける為に無表情で応えたにも関わらず、気にした様子を見せずに不敵な笑みを浮かべて見せた。
「はじめまして、アクア様。司の妻のローズ=リアタフテです」
「ええ。はじめまして、ローズ。私の司から話は聞いているわ」
「・・・」
先程迄の態度に対しては明確な態度を示さなかったローズだったが、私の司とアクアが口にすると、ルビーの双眸の奥に密めていたものはその姿を現し・・・。
「私の事はアクアで良いわよ」
「ありがとうございます。アクア様」
ローズは感情を抑えながらも、その激情を努めて冷静な台詞で示したのだった。
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