第679話
「どうだったかしら、ルーナ?」
「マスターの指示通りの設置を済ませてきました」
「流石、私のルーナね」
「はいっ」
「ふふふ」
フェルトから褒められたルーナは、正に母親から褒められた子供の表情を示し、弾む様な喜びの声を上げたのだった。
(設置ねぇ・・・)
フェルトからルーナは周辺の探索に向かわせたと聞いていた俺は、それなりに不穏なルーナの発言にツッコミを入れるべきか悩むが・・・。
「・・・」
「どうかされましたか、真田様?」
「いえ・・・」
(エフェリドは気付いたけど、静観するつもり・・・、か?)
多分、監視の意味もあるのであろうエフェリドからも、此れといった追及が無い為、取り敢えずは俺も流しておく事にする。
(まぁ、此処は飛龍の巣の一件で守人達から被害を受けているから、直接戦闘が無いとはいえ連中と自分達の力量差は理解しているだろうが・・・)
気になる事は有るがもう時間も無いし、暫くすればポーさんとユンガーも弟子達を連れて合流してくれるらしいし、ルーナもフェルトが疑われ危機に陥る様な無茶苦茶な事は流石にさせないだろう。
「司様」
「ん?あぁ・・・」
魔力回復を求める様に、自身の頭を俺の左肩へと乗せて来たルーナ。
「ん・・・」
二人とも立っている為、微妙に撫でにくい位置にある頭に掌を置き、其れを手櫛の様にして髪を撫でてやると、指先が耳に当たったらしく、ルーナは鼻に掛かった様な声を漏らし、意識してなかった俺は、一瞬心拍数が跳ね上がってしまった。
「・・・」
「ふふふ」
そんな俺の感情に気付いたのか、フェルトは作業を進めながら揶揄う様な笑みを浮かべて来る。
「まだ、時間は掛かりそうか?」
「いつも言っているでしょう?私の子達は皆んな繊細なのよ」
「そうかぁ・・・」
揶揄われた事が理由でも無いが、予定は山程詰まっている為、出来れば今日中にはアウレアイッラに朔夜の最終的な手入れを頼みに行きたいのだが・・・。
「もう行ってしまうのですか?」
少し不満気なルーナは、俺の肩の上で長い睫毛を俺にしか気付けない位に震わせながら、その瞳の奥に縋る様な色を魅せた。
「ん・・・」
「今日位は残りなさい」
「フェルト・・・」
「言ったでしょ?今回の件は・・・」
其れに惹かれる様に、はっきりとした答えを発せられ無い俺にフェルトからのプレッシャーが掛かる。
「分かったよ」
「司様っ」
其れに負けてしまった俺に、弾む声を上げたルーナ。
そんな様子に、悪くないのかなと自身を納得させたのだった。
その日の夜は、三人で野営をして過ごしていたが・・・。
「正気かしら?」
「あぁ、勿論だ」
そんな中で上がったフェルトの驚きの声に、俺は即座に頷く。
「ふふふ、貴方って本当に変態だったのね」
「・・・」
変わっているというところを、態と傷付く様な単語を選んだフェルト。
然し、その表情は若干真面目ものも感じられ、本気で俺の伝えた内容に思うところがある様子だった。
(まぁ、フェルトはそうだろうな・・・)
俺がジェールトヴァ大陸の事と、決戦後の自身の活動を伝えた事へのフェルトの反応に、ただただ納得してしまう俺。
「私は司様のお手伝いをします‼︎」
「あぁ。ありがとう、ルーナ」
「はいっ」
対照的にルーナはいつも通りというか、まだ此の世界での自身の存在に対して違和感や不安のあった俺を肯定し続けてついて来てくれた時のままだった。
「良いですよね、マスター?」
「仕方ない子ね」
「マスター」
「其れで、何か手は考えているのかしら?」
「あぁ。楽園への道が開かれれば、向こうで何かしらの新たな治療法の情報を得られるかもしれないし、其れが無理でも、まだ此の世界には眠り続けている魔人も居るからな」
「なる程ね」
楽園の連中が俺に協力する可能性は殆ど無いが、此の世界へと来ている魔人ならば可能性もあるだろう。
(ラプラスから得て来た情報を考えると、力=知識で無い事は確かだし、決して可能性が無いとは言い切れない筈だ)
俺はそんな風に自身に決意を言い聞かせたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます