第680話


「助かるよ、二人とも」

「当然ですわ」

「安心して下さい。必ず娘さんは凪様は私達で守ってみせます」


 俺からの礼の言葉に、力強く頷いてくれたミニョンとフレーシュの姉妹。

 俺達は決戦に向けて朔夜の手入れと打ち合わせにアウレアイッラに来ていた。


「ですが、巨人族とは本当に保守的な一族なのですね?」

「あぁ。どうやらな」


 フレーシュの言葉に頷く俺。

 ジェアンの追放の話からもある程度想像は出来ていたが、人族が近付く事には許可は出ないとは・・・。

 ジェアンからの情報とシエンヌが相談を持って行ってくれたギルドマスターの話から、巨人族は他種族、特に人族と魔人族に対してあまり良い感情は持っていないらしく、ペルグランデ付近の鍵穴にはディアとアナスタシア、そしてブラートで向かってもらう事にしたのだった。


「でも、二大戦力ですからね」

「あぁ。ただ、余り戦力を割かないと、狐の獣人達との関係に亀裂が入って、逆に敵に謀略の機会を与える事になるかもしれないしな」

「そうなると、逆にリアタフテ領に危険が及ぶと・・・」


 複雑そうな表情を浮かべるフレーシュ。

 彼女も学院生活を送ったリアタフテ領には特別な想いもあるらしく、其処に危険が及ぶのは避けたい事の様だった。


「其れに、ディアもミラーシ防衛の為に、精鋭部隊はミラーシに残して置きたいらしからな」

「当然でしょうね。幾ら、サンクテュエールと深い関係になったとはいえ、この機会にミラーシへの侵攻を開始する可能性を考えている者達も居るでしょうしね」

「あぁ」

「そんな筈無いのですわ」

「まぁ、其処が彼等の誇り高さの面倒なところだな」

「むぅ〜・・・、ですわ」


 ミニョンの怒りも分かるが、彼等の考えも理解出来ない訳でも無い。


(そもそも、判明した一族の起源などを秘匿し続けているのもその為だし、逆に其の手のタイプは、その尊厳を損なう様な事をした方が、自暴自棄になって全てを巻き込んで自滅に向かう可能性もあるからなぁ・・・)


 何も此れは全てが彼等の為だけのものでも無いのだ。


「其れに、凪様の鍵穴がペルグランデで無かった事を良かったと考える事も出来ますしね」

「あぁ。そう考えた方が良いよな」


 其処はフレーシュの言う通りで、もし凪をそんな状況に放り込まなければならなくなれば、其れこれ、俺は気が気でなかっただろうし、そんな状況で最終決戦に臨まなくて良いと考えれば、この状況は決して悪くないものだった。


「そういえば、遅いですね?」

「そう・・・、かな?」


 ふと、何の他意も無く呟いたフレーシュに、俺は不安そうな顔で応えてしまう。


「様子を見て来ますね?」

「あ・・・」


 表情からそんな俺の内心を察して、フレーシュは即座に俺の不安の種を確認に向かおうとしてくれたが・・・。


「必要無いよ」

「シエンヌさん」

「パパ、ただいま」

「おぉ・・・。お帰り凪」


 背後から掛かった声に振り返ると、其処にはシエンヌと凪が並んで歩いて来ているところだったが、俺はたった数メートルの間をその場で待っている事が出来ず、早足で凪を迎えたのだった。


「どうだった凪?」

「勿論ちゃんと挨拶もしたし、お話も聞いたわ」

「そうか、よしよし」

「はぁ〜・・・」


 俺と凪のやり取りに、呆れた様な溜息を吐くシエンヌ。


「偉かったですわね、凪ちゃん」

「・・・別に、当然の事です」


 実際に子供とはいえ、ミニョンの明らかな子供扱いに少しムッとした様子の凪。

 前回も勿論挨拶などはしていたのだが、今回の挨拶は本番では俺もアナスタシアも同行出来ない為、本番で同行してくれる者の中で、一番気難しいといえるシエンヌと二人でアウレアイッラの者達との話し合いが出来るかの確認の為だった。


(まぁ、凪は其の手の教育は既に受けているし、シエンヌもこう見えてかなり面倒見も良いし、真の意味での不安も無かったが・・・)


 自身の先程迄の不安を首を振って無かった事にした俺。


「はぁ〜・・・。何方が子供なんだろうねえ」

「・・・」


 そんな俺に、シエンヌは溜息と共に的確なツッコミを吐いたが、俺は其れには気付かない振りをしたのだった。

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