第678話
「此れで問題無いですか?」
「助かるわ。ありがとう」
「いえ、どういたしまして」
「ふふふ」
依頼していた素材を受け取ったフェルトからの礼に、そばかすの消え綺麗になった頬を掻くエフェリド。
そんな様子にフェルトは、悪戯そうな笑みを浮かべたのだった。
(顔付きは以前より精悍なものを感じるが、おっとりした雰囲気に変わりは無いな)
決戦を前にして下準備を希望したフェルト。
俺はサンクテュエール国王を通じて、フェデラシオン連合国の宗主国である『ディナスティ』の王都『カピタール』での活動の許可を得て、フェルトとルーナと共に、ランコントルの大尉へと昇進したエフェリドの案内でカピタールへと来ていた。
「・・・」
「どうかされましたか、真田様?」
若干不躾な視線を送ってしまっただろうか?
エフェリドは不思議そうな表情で俺に問い掛けて来た。
(この若さで大尉迄昇進するとは、かなり優秀なんだろうな)
飛龍の巣での一件以降、帝国との戦争にヴィエーラ教との睨み合いなど、安定しない状況の続いた此の大陸。
昇進する機会は多かっただろうし、眼前の青年は其れを逃さず成果を上げ続けたという事だろう。
「いえ、すいません」
「はぁ・・・?」
俺は自身の視線に対して短く謝意を述べると、エフェリドは不思議そうな表情を浮かべたまま、それを受け入れてくれたのだった。
「それで、其れは何に使うんだ?」
「説明しても分からないでしょ?」
「・・・」
「ふふふ。いじけないの」
そんな俺とエフェリドのやり取りの間にも作業を進めていたフェルト。
説明を求めた俺に対して、いつもの様な揶揄いを含んだ対応を示して来たが・・・。
(分かってはいるんだろうけど、そういう訳じゃ無いんだよなぁ)
決していじけた訳では無く、正確な情報を持っておかなければ、万が一、国王辺りから詳細な説明を求められた時に困るからなのだが・・・。
「さて・・・、と」
フェルトは俺に其れを説明するつもりは無いらしく、エフェリドから受け取った素材と自身のアイテムポーチから取り出した素材で、何やら複雑とだけは理解出来る作業を進めていた。
「ですが、ある意味壮観なものですね?」
「えぇ。王都の住人の方達からすれば恐怖の対象でしか無いのでしょうけどね」
「ええ。でも真田様が来てくれたのですから一安心ですよ」
そんな俺とフェルトのやり取りはいつもの事なのだが、初めて目にするエフェリドからすると微妙な関係の可能性も考えたのだろう。
エフェリドは話を変えて、俺に気を遣った様な発言をしてくれたのだった。
(まぁ、決戦時には俺はリアタフテ領の楽園への門の前なのだが・・・)
それでも、此処は比較的に割ける戦力も多く、四つの鍵穴の中では安全な方だし、気は抜けないが安心はしていい所だろう。
(飛龍の巣の変化も無い様だし、空中戦を行えるルーナも居るからな)
相手方の空を飛べるスラーヴァは間違いなく門に現れるだろうし、フェルトの人工魔流脈への負担を考えると、ある意味では好条件だろう。
「何かしら?随分失礼な視線を感じるのだけれど」
「そうか?」
「ふふふ。私は今回の件は貸しだと思っているのよ?」
「・・・」
「高く付くわよ、司?」
「分かったよ」
「ふふふ・・・。良い子ね」
作業を行いながらも、背中だけで俺の心の中を読んだらしいフェルト。
フェルトの中で、どれ程の貸しになっているのかは分から無いが、其れを忘れる様な女で無い事だけは確かで、俺は身震いしそうになるのを必死で抑えた。
「司様ーーー‼︎」
「ふふ、戻ったみたいね」
「あぁ」
響いて来た聴き慣れた声による自身の名にその先に視線を向けると、其処にはフェルトからの指示で辺りの調査をしていたルーナが、空を翔けながら戻って来ていたのだった。
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