第656話


 閃光による謎の詠唱から暫く経ち、やっとみせたハッキリしたといえる反応。

 然し、其れは何に対するものか分からず、ある意味では今迄よりも恐怖を感じる事になった。


「チマー?」


 精神的なものもあるが、いつでも距離を取れる様に恐る恐る声を掛ける俺。


《ふふふ》

「・・・」

《はい?》

「っ⁈」


 声はチマーのものながら、その口調は不快感で全身の鳥肌が立ってしまうもので・・・。


(此奴は・・・‼︎)


 何より、よく聞き覚えのある其れに、俺は重なる視線を外さず、その瞳の奥の存在を探る様にしながら・・・。


「お前・・・、ルグーンか?」

「ふふふ・・・」


 問い掛ける俺を揶揄う様にハッキリと答えない態度は、正にルグーンの其れで、俺は自身の見立てに確信を持つ。


「どうして・・・」

《気になりますかね?》

「・・・」

《ふふふ。どうしましたか?》

「いや・・・。確かに理由はどうでも良いがな」

《ふふふ。ですか?》


 どうせまともに答える気も無いだろうに、ルグーンは態とらしく残念そうな声色で応えて来た。


「だが、チマーは何処にやった?」

《ふふ、此処にいらっしゃいますよ?》

「っ⁈」

《まぁ、もう表に出て来る事はありませんけど》

「深・・・」


 厭らしい口調でそう締めたルグーンに、俺は迷い無く始動するが・・・。


《ふふふ、其れは》

「っ‼︎」


 巨体全身に纏っていた闇のオーラを、絡み付く無数の枝の様に伸ばして来たルグーン。

 俺は詠唱を中断し、上空へと翔け上がり其れから逃れる。


「迅速な対応だな?」

《ふふふ。効果は無いですけど、自由にされるのはお断りしたいので》

「そうかい」


 効果は無いと言うルグーンだったが、俺が深淵より這い出でし冥闇の霧を選択して、其れをやらせなかったという事は、何らかの魔法の力でチマーを精神を封じているという事だろう。


(それならやるべき事は限られているな)


 当然、逃げる事も選択肢には有るのだが、チマーと同等の力を使うと想定すると、極大の力を無尽蔵に使用出来る訳で、逃げ切れる可能性は無いと言い切って問題無いだろう。


「だけど、どういうつもりでチマーの身体を狙った?」

《真田様が其れを素直に返して下されば、こんな危険な手を使わなくても良かったのですがねぇ》

「そもそも、お前のものじゃ無いがな」

《ふふふ。其れはお互い様かと》

「・・・」

《私の様な矮小な者は、こうして寄生を行わなければ、強力な力を持つ方には対抗出来ませんので》

「どうだかな?お前の力だって使い方を考えれば十分強力な力だろう」

《いえいえ、とんでも無いですよ》


 自嘲気味な台詞を若干、真の感じられる声色で応えるチマー。


《それに、私の身体ではあの男に対抗出来ませんからねぇ》

「スラーヴァの事か?」

《ええ。ムドレーツ殿もナヴァルーニイ殿ですら、最近ではおかしな考えを持っている様ですし》

「おかしな?」

《ええ。あの劣化品が万が一にも勝利する様な事があれば、創造主様に申し訳が立たない事になるのですよ》


 ムドレーツやナヴァルーニイの考えはハッキリと言わないルグーンだったが、内容から察するに守人達は一枚岩では無く、最終的に此方に勝利した後に、守人達の中で勝者となった者がその後の方針を決めるという事なのだろう。


(だが、此の言い様じゃ、ムドレーツは分からないが、ナヴァルーニイは此奴と同じ考えになりそうだが?)


 以前に会った時の感じでは、完全に創造主を崇拝している感じだったし、この短期間で考えが変わるとは思えないが・・・。


「お前が勝手に創造主の言葉を、都合良く解釈をしているだけじゃ無いのか?」

《そんな事はありませんよ。誰もあの御方の真意を正しく理解していないのですよ》

「どうかな?」

《ふふふ》


 此の話は何処迄いっても平行線なのだろうし、其処を此奴と納得しあう必要も無いのだった。

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