第657話
(深淵より這い出でし冥闇の霧への警戒が強い以上、狙うべきは相手の隙を作る事だが・・・)
その為には一つ確認しておかなければならない事が有る。
「・・・‼︎」
チマー巨体へと巻き付けていた漆黒の衣に魔力を注ぎ、引き寄せる様にしたが、先程迄とは違い抵抗が加わっている為、其の巨体はびくともしなかった。
《ふふ、何ですかね?》
「いや・・・」
現在、俺とルグーンの居る地点は海岸迄もう少しといった所で、これといった特徴の有る場所では無く、態々、此処迄来る必要はルグーンには無い筈で、先程迄は間違い無く意識を失っていたといえるだろう。
(そうなると、やはりチマーを呼び戻す事はまだ可能なのだろう)
だが、確かめたかった事はそんな事では無く・・・。
「剣‼︎」
同じ無詠唱でも、もう一段隙の少ない詠唱を行い、闇の双刃を生み出した俺。
《ふふふ。何ですかね?》
「・・・‼︎」
惚ける様なルグーン台詞に、其れを払いのける様に腕を振る俺。
呼応する様に放たれた闇の双刃は、本来なら鋭い風斬り音を上げながら、漆黒の巨体へと突き立っていく筈だったが・・・。
「っ‼︎」
漆黒の体躯に触れた闇の双刃は、溶ける様に消滅していき、俺は最も重要な事実を確認出来たのだった。
《ふふ、流石に真田様の魔法とはいえ、闇の魔法は此の身体には通用しないかと?》
「・・・」
挑発する様なルグーンには応えない俺。
然し、語っている内容は事実らしく、やはりルグーンが身体を乗っ取っているとはいえ、闇の因子の効力が無くなっている訳では無い様だった。
(こうなって来ると、牽制に使えるものが限られて来るな・・・)
無詠唱とはいえ、漆黒の霧をあの巨体全体から魔法を飲み込める迄広げるには、ある程度の時間は掛かるし、隙を作る術が必要になって来る。
「静寂に潜む死神よりの誘い‼︎」
俺は不可視の魔法を放つが・・・。
《ふふ、喰らえませんねぇ》
ルグーンはチマーの巨体を軽やかに操り、最速にして最小限の動きで其れを躱す。
「だろう・・・」
《ふふふ》
「よっっっ‼︎」
一気に間合いを詰め、振り下ろした朔夜の斬撃を、月明かりに照らされ妖しい光を放つ爪で受け止めたルグーン。
《ふふ、本当に素晴らしい限りです》
「お前の力では無いがな?」
《ええ。是非是非、下劣とでも罵って下さい》
「そう思うなら、正せよ‼︎」
鍔迫り合いの型になった闇色の刃と漆黒の爪。
ルグーンの体勢を崩そうと、朔夜を持つ手に力を込めるが・・・。
《その必要は無いでしょう》
「っっっぅ‼︎」
全力で押し込んでいた俺に、ルグーンが何でも無い様に前脚を振ると、俺の身体は簡単に吹き飛ばされてしまった。
《どんなに侮辱され様とも、此れだけの力を手に入れたなら問題ありませんしねぇ》
「下衆が‼︎」
《ふふふ。はい》
俺が吐き捨てる様に告げた台詞にも、ルグーンはその前脚を不自然に広げ、何処からでも掛かって来いとばかりの姿勢で応える。
(当然だけど、力比べで勝てる相手では無いし・・・)
「静寂に潜む死神よりの誘い・・・」
俺は再び不可視の魔法を放つと同時に・・・。
「はあぁぁぁ‼︎」
闇の翼に魔力を注ぎ、開いたルグーンとの間合いを詰める。
《ふふふ。何度来られても無駄ですよ?》
ルグーンは面倒くさそうに不可視の魔法を爪で払いながら、その漆黒の双眸で此方を見据えて来た。
「それは俺が決めるさ?」
《そうでしたか?》
払った勢いのまま振り上げる前脚に応える様に右腕の朔夜を構えた俺。
左掌は魔法の詠唱の為に空けておいたのだった。
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