第632話


「戻ったか」


 モナカの言っていた通り、丸一日後に帰って来たチマー。


「ああ、司。待ってたの?」

「まぁな」


 俺が此処に来た目的は此奴に力を貰う事で、魔法の時の一件から交渉を切り出せないでいた。


(交渉の期間の目処が立てば、レイナの方の交渉も開始したいのだが・・・)


 此方はチマーからチェックして貰って、魔法を使用すれば長期間の滞在は可能と言われているが、決戦前には済ませておきたいし、流石に任せたからといって直ぐに放ったらかしにするのは問題だろう。


(そうなって来ると、俺が帰れる状況を作る迄、一緒に居る方がいいという話になる)


「どうだった?」

「う〜ん・・・」

「何だ?異変があるのか?」

「そうだねぇ、司は一人で此処に来たのかな?」

「いや、島に着く迄はアポーストルに連れられてだけど・・・」

「う〜ん・・・、無くはないかな?」


 気になる事はある様だが、納得する様な表情をみせたチマー。


「彼奴がどうかしたのか?」

「うん。誰か此の大陸を彷徨いてる子がいるみたいなんだよね」

「廃棄業の人間や、人攫いが大陸の奥迄入って来てるんじゃないか?」

「其れにしては気になる存在なんだよ」

「気になる?」

「うん。大した力は持たないみたいだけど、妙な雰囲気を感じるんだ」

「妙・・・、ね」


 まぁ、此奴に敵う存在なんてまずいないだろうが、気にかける迄の存在というのは気になる。


「見つけられないのか?」

「うん。気配を掴んだと思ったら隠れてしまうし、力そのものが微弱過ぎるから正確な場所も掴めないんだよ」

「なるほどな」


 此処での生活を始めた時、子供を捨てていく連中や人攫いに対応しないのかと聞いた時に、理由として聞いていた内容。


「なら、人攫いの可能性を考えて、子供達に外出を控えさせたらどうだ?」

「そうだねぇ。可哀想だけど仕方がないかぁ・・・」


 真に悲しそうな表情を浮かべて漏らしたチマー。

 此処の子供達は、限りある時間の中を生きている為、チマーはなるべく自由な生活を送らせてやりたいと考えているらしく、日頃は外出などに特に制限は設けていないのだが・・・。


「まぁ、弱っちい奴だし、見つけたら即殺っちゃえばいいけど」

「物騒な発言だなぁ・・・」

「そう?ボクの子供達に悲しい思いをさせているんだよ?」

「まぁ・・・、な」


 此奴と議論する事に何の意味もない為、俺は取り敢えず納得した振りだけをしておいた。


(チマーはアポーストルの可能性も無い訳ではないと思っている様だし、一応彼奴はチマーに協力してやったりした事があるのになぁ・・・)


 彼奴の事等どうでもいいが、不憫に感じなくもない俺。


(まぁ、彼奴は既に決戦後の準備の為に教団総本山辺りに戻っているだろうけど)


「まぁ、司も居る事だし、大丈夫だよね」

「ん?そうか?」


 俺の力なんて、チマーが居る状況ではなんの意味も無いと思うが・・・。


「安心しなよ。ボクが楽園で会った事の有る中で、司より強いのなんてグロームか、名前は忘れたけど、変態っぽい鬼の魔人くらいだよ」

「・・・」

「どうかしたの?」

「いや・・・、何でもないよ」

「そう?」


 最近、特殊な状況下で倒した神龍と、思い当たるところのある変態な鬼の魔人。


(やはり、彼奴等とは単純な力比べなら、俺は敵わないのかぁ・・・)


 正直なところ、其れは俺にとってショックな内容だったが、余計に龍神結界・遠呂智を完成させる必要があるという事だろう。


「まぁ、今隠れてる不届き者を見つけて退治したら、司への協力も考えてあげるよ」

「本当か?」

「勿論。ボクは嘘なんかつかないよ」


 どういう風の吹き回しか分からないが、突然そんな事を言い出したチマー。


「司が創造主を倒したからって、世の中が変わるとは思えないけど、司に力を与えるのは悪くなさそうだしね」

「チマー・・・」

「でも、ボクの子供達を傷付ける様な事が有れば、容赦はしないからね?」

「勿論だ。そんな事はしないし、俺が闘いに勝てたら各国の王達や、新たな楽園の主と此処の状況改善の交渉をするよ」

「まぁ、やるだけやってみなよ?」


 俺に力を与えるとは言ったが、チマーはそれで状況が変わるなんて思ってはいないらしい。


(ただ、俺にとっては其れが全てだし、約束した事は守らせてもらうがな・・・)


 俺は心の中で、そんな事を決意したのだった。

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