第631話


「司ー‼︎ボール‼︎」

「はいはい」

「パパ、またお付き合い?」

「あぁ、仕事先の関係でな」


 此処はジェールトヴァ大陸にあるチマーの住処の庭。

 俺は5歳になる男の子のジニーフのボール遊びの相手と、6歳になる女の子のニヴェースタのままごとの相手を同時に務めていた。


「もうっ、男の人はいつもそうよっ」

「おっ、おっ」

「ねぇ〜?」

「えっえ〜」


 俺がジニーフの相手に戻ろうとすると非難の態度をみせたニヴェースタと、それに賛同する様に声を上げたレイナ。


「すまんな・・・」


 俺は申し訳無さそうに謝りながら、ジニーフへとボールを蹴ったのだった。



「司ー‼︎ご飯よー‼︎」

「ん?モナカかぁ・・・」


 ままごとの流れでニヴェースタが泥団子でも作ってくれたのかと思ったが、ニヴェースタはその途中で寝落ちしたらしくレイナと頭をくっ付けて眠っていた。


「すぅ〜・・・」

「ぅぅぅ〜・・・」

「あら?ニヴェースタったらぁ」


 仕方なさそうにしながらも、泥で汚れたニヴェースタの掌を拭いてやっているモナカ。


「ジニーフは大丈夫か?」

「んっ・・・。ん」


 見るとジニーフもニヴェースタに釣られた様に、小さな頭をうつらうつらと揺らしていた。


「あら、大変。三人を一遍に運ぶのは・・・」

「ほいっ・・・、と」

「司っ」

「ご飯なんだろ?行こうぜ?」


 ジニーフとニヴェースタ、そしてレイナの三人を一気に抱き抱えた俺。


「レイナは私が・・・」

「先に行くぞ、モナカ?」

「待ってよー‼︎」


 俺は背中にモナカの声を受けながらチマーの住処へと帰っていくのだった。


「ふぅ〜。ご馳走様でした」

「いいえ。お粗末様でした」


 小さい子供達の殆どは昼寝しており、席に着いているのはモナカと同じ位の歳の子達だけだが、それでも五十人近くの子供達が食堂で昼食を一緒に摂っていた。


「チマーはまだ戻らないのか?」

「大抵、巡回に出ると丸一日は帰らないわよ」


 住処の主であるチマーは、ジェールトヴァ大陸の警備の為の定期の巡回に出掛けていたのだった。


「子供達だけで、危険じゃないのか?」

「大丈夫よ。此処にはママ以外の大人は居ないから」

「・・・」


 少なくとも攫われた子供達が居たのだから、安全とはいえないのだが、ただこの住処はジェールトヴァ大陸でも中心部の為、此処迄、人攫い等が来る可能性は無いのだろうけど・・・。


(此処迄来れば、たとえ防護服に身を包んでいても、廃魔石による汚染でやられてしまうらしいからな)



「其の魔法は此処の子達には必要無いよ」

「え?だけど・・・」

「其れじゃあ、既に汚染に汚された子達を救う事は出来ないし、此処に捨てられる様な子達は捨てられた瞬間に汚染にやられてしまうからね」

「・・・」


 此処での生活を始めて直ぐに、此処の子達の汚染による体調不良を見てしまった俺は、彼女から授けられた魔法で此処の子達を治療しようとしたが、其れはチマーから止められてしまった。


「そもそも、此処の子達はボクの因子で生命を存えているからね」

「そうなのか?」

「だから、他の要素を加える事は個体差はあるだろうけど、必ず効果があるとはいえないんだ」

「そういう事か・・・」


 レイナと俺を見て魔法の効果を知ったチマー。

 俺がその事を説明すると、やっと朧気ながら俺の事を思いだした様だった。


「司やレイナは魔流脈に強度があるから、其の魔法の効果が現れ易いみたいだけどね」

「他の子達は?」

「まぁ、痛みを引く効果はありそうだし、時間がある時に効果がありそうな子供達の検査はするよ」

「あぁ、分かったよ」


 そういう内容で、少なくとも此奴より知識が無い事は確かなので、あっさりと受け入れた俺。


「でも、彼女は逝ったんだね」

「あぁ。チマーは彼女には?」

「ちゃんと会った事は無いかな?でも、楽園に居る時に姿くらいはね」

「そうか・・・」


 言葉にした内容通りまともな面識は無いのだろう。

 あっさりとした様子で、彼女の死を受け入れるチマー。


「チマーは、守人達との決戦の準備は済んでいるのか?」

「決戦?どうして?」

「どうしてって・・・?」


 心底不思議そうな表情を浮かべるチマー。


「闘う必要なんて無いでしょ?」

「チマー・・・、お前・・・」

「此の世界の人間は、守人達から守る価値のある存在なの?」

「・・・」


 そう感情の無い声で告げて来たチマーに、俺は応える言葉を探し出せないのだった。

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