第630話
「ねぇねぇ?」
「・・・」
本気でその表情に疑問の色浮かべるチマー。
(もしかして、此奴・・・)
「俺の事、忘れたのか?」
疑問で疑問に応える形になったが、それを確認しとかない事には話が進まないと、俺は先ずそれを確認する事にした。
「忘れた?誰が誰を?」
「お前が俺をだ」
「ええ〜‼︎」
どうやら本気で忘れているらしく、高い声を上げたチマーは俺へと駆け寄って来て、爪先立ちをしながら俺を見上げて来た。
(俺の口調に嘘は無いらしいと思っている様だが・・・)
良かったのは其処だけで、チマーに忘れられているとなると、力を貰う交渉は初対面同士のところから始まる事になってしまうのだった。
「やっぱり、見覚えが無いね」
「そうか・・・」
「ただ、ボクの因子は家の子になった子達、皆んなにあげているからね」
「・・・」
「それに、行方不明になった子も居なくはないし・・・」
語尾からは少し力が失われ、寂しそうな様子をみせるチマー。
(此処には捨て子が無数に居て、今もその人数は増えていっているのだし、アルヒミーの様に此処に子供を攫いに来る奴が居ても不思議じゃないだろう)
俺がそんな中の一人に見ても不思議ではない位、此処には沢山の子供達が暮らしているという事だろうか?
(まぁ、俺の子供と思っている事には、思い出す迄ツッコミを入れる必要も無いか)
正直、幾千を数える刻を生きる此奴にとっては、俺なんてほんの赤児位の存在だろう。
「苦労して来たんだろうねぇ〜」
「あ、あぁ、まぁな」
「今日からは、また家の子として育ててあげるよ」
「ありがとう」
力を貰えるかは別として、取り敢えず受け入れ態勢をみせてくれたチマーに、俺も一応の礼を告げると・・・。
「ねぇねぇっ‼︎」
「っ⁈何だ⁈」
部屋のドアが激しい音を立てて開き、中へと飛び込んで来たモナカ。
チマーに対する危機感から警戒はしていた為、事件の様なものでは無いだろうが、そうなると想定出来るのは・・・。
「レイナに何かあったか?」
どんなに強烈な魔力を持っているとはいえ、まだ赤児の彼奴は当然の体調変化もあるだろう。
そう決めつけた俺の問い掛けに、モナカは・・・。
「レイナなら、弟や妹達と一緒に眠ってるわよ」
「なら・・・?」
「君の名前を聞いてなかったと思って」
「え?」
「君の名前?」
「おっ」
「教えて?」
「おい・・・」
一言問い掛ける毎に、俺との間を詰めて来るモナカ。
遂には、ベッドに上がらんばかりの体勢になり、俺は子供特有のパーソナルスペースへの意識の無さに少し引いてしまうが、モナカには当然気にした様子は無かった。
(基本、人族で白人ベースの感じの容姿なところを見ると、サンクテュエールがある大陸出身の可能性が高いか)
俺はモナカの容姿を観察しながら、そんな風に考えた。
「司だ」
「司?変わった名前ね?」
モナカの歳ではどの程度召喚者に対する知識があるか分からないが、日本名の俺の名を珍しがっても不思議は無いだろう。
「あぁ、まぁな」
取り敢えず、パーソナルスペースを取り戻そうと、短く応えてモナカの肩に手を置きベッドから下ろす。
「はい。ココアよ?」
「ありがとう」
まだ夜で温度を調節する制御装置も無いらしい部屋は意外と冷えていて、モナカの持って来てくれたココアを飲むと、身体の芯が温められた。
「司・・・、ねぇ?」
「・・・」
「どうしたの?ママ?」
「う〜ん・・・、ん」
俺の名を口にしながら、モナカからココアを受け取り口をつけたチマー。
(思い出しそうかもしれないが、確認はモナカの居ない所でした方が良いだろうな)
俺とチマーの出会った時の話は、モナカにとっては辛いものだろうし、其れを此処でしてチマーの機嫌を損ねる意味は無いだろう。
「う〜ん・・・」
「・・・」
「まっ、いいか」
「・・・」
あっさりと諦めたチマーにツッコミを入れたかったが、其れをする体力が勿体ない位には疲労も残っている為、俺はチマーとモナカに頼み休ませて貰う事にしたのだった。
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