第629話


「そういえば・・・」

「何かしら?」

「俺と一緒に赤児が居た筈なんだが?」


 俺は横たわっていたベッドから身体を起こすと周囲を見回すと、俺の今居る部屋はそう広く無く、レイナが居なくなっている事が直ぐに確認出来た。


「ああ、あの子なら妹と弟達が連れて行ったわよ」

「妹?弟?」

「ええ。皆んな、此処で一緒に暮らしているのよ」

「そういう事か・・・」


 此処ジェールトヴァ大陸には多数の捨て子が居るらしいし、その子達をチマーが拾っていっているなら、モナカの下にも子供達が居るだろうし、レイナの様な存在には慣れているのだろう。


「キミ、感心しないねぇ」

「ん?何がだ?」

「あの子、妹ちゃんなんだろうけど、こんな所に捨てに来るなんて」

「・・・」

「お兄ちゃんなら、最期迄、守ってあげないとねぇ」


 非難する様な視線を向けて来たチマーに、俺は否定をするのは簡単な事だったが、その後どう説明するかを思考していると、チマーは秒と待たずに追撃をして来たのだった。


「ママ‼︎」

「何だい?モナカ?」

「この子だって、もしかしたら・・・、その・・・」


 モナカは本気で俺を子供くらいに思っているらしく、レイナだけで無く俺も捨て子と思い、其れを口にする事を躊躇っていた。


「気を遣ってくれているところ悪いが、俺は君よりもずっと歳上だし、捨て子では無いよ」

「分かるわ。背伸びしたい歳頃なんだよね?」

「いや、そうじゃなくてな」

「大丈夫よ」

「・・・」


 何やら自分の中で答えを出しているらしいモナカは、俺の言葉を受け取りつつも、受け入れる事はせずに・・・。


「取り敢えず、落ち着く為には飲み物よね」

「・・・」

「ちょっと、待っててね?」


 そう口にすると、部屋から早足で出ていったのだった。


(良くない展開だ・・・)


「な‼︎」


 モナカが部屋のドアを閉めた瞬間。

 俺は全身へと一気に魔力を巡らせ警戒体勢に入る。


「へぇ〜、意外と鋭いんだねぇ?」

「っ‼︎」

「間の抜けた顔してるのにぃ?」


 双眸の漆黒を闇深い色に染め上げ、静寂の表情で此方を眺めるチマー。

 其の視線が見据えるもので無い事が、余計にこの場の空気を張り詰めさせた。


「良いのか?」

「何がだい?」

「モナカが戻った時に、俺が此処に居ないと訝しむぞ?」

「それは安心しなよ。ちゃんと跡形を残さずに終わらせてあげるから?」


 少しも安心出来ない内容を、表情だけは目一杯子供をあやす様なものに変えて告げて来たチマー。


(その表情も余計に恐ろしいし、何より此奴は其の内容を赤子の手を捻る位簡単に実行出来るだろう)


「落ち着いてくれると助かるが?」

「そんな殺る気満々のくせにぃ」

「この程度の力じゃ、お前を殺るなんて不可能だろ?」

「へぇ〜、態度の割には謙虚な考えだねぇ」


 俺からすると単純な事実だったが、チマーは本当に感心した様な表情をみせ・・・。


「まっ、殺ら無いけどねっ」

「え・・・?」

「何かなぁ?殺られたいの?」

「そんな訳無いだろ」


 あっさりと物騒な発言を取り消したチマーに、俺は呆気にとられてしまう。


「でも、一つだけ答えて貰おうかな?」

「何だ?俺に答えれる事なら、何だって答えるぞ」

「良い子だねぇ」


 俺は一切の敵意も持たないと示す為に、努めてハッキリとした口調で頭に疑問符を浮かべるチマーに応えた。


「キミ、其れは何処で手に入れたの?」

「其れって?」

「闇の因子の事だよ」

「っ⁈」

「やっぱり、理解はしてるんだ?」


 俺の中にある闇の因子を感じとったらしいチマー。

 チマーは再び少しだけ其の双眸に緊張感を増して告げて来たのだった。

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