第622話
ジェールトヴァ大陸。
其処を最初に人の夢の成れの果てといったデリジャンの言葉は確かで、捨て子や廃魔石が集められているとはな・・・。
「でも、一箇所に集めるなんて、そんなに廃魔石って其処迄危険な物なんですか?」
「廃魔石化は魔力の消費によって起こる現象じゃが、長く魔空間に晒された事も現象発生の要因の一つとの研究結果もあるのじゃ」
「じゃあ、廃魔石からは?」
「うむ。魔空間と同じ其れが発生しておる」
「・・・」
そんな物が一箇所に集められた先に捨てられる魔法の才が無いと判断された子供達。
(勿論、捨て子というだけでも生命の危機があるのだが、万が一その先へと辿り着けたとしてもその環境では・・・)
「そんな環境になっても、現在迄各国間で何らかの解決策は話し合われなかったんですか?」
「そうじゃな」
「・・・」
「既に、思考が停止しとるのじゃ。世界各国が不文律で超法規的にどの国にも属さぬ土地を作り、其処に廃魔石を集めたのじゃ。其の為、ジェールトヴァ大陸は暗黙の了解の中で無法地帯として認められておる」
苦悶の表情を浮かべながらも、ジェールトヴァ大陸の成り立ちを説明してくれたデリジャン。
「だから、犯罪者達が自由に子を捨てて問題ないと」
「そうじゃ」
「この事は陛下も?」
「魔石が人々の生活に根付いたのは既に百以上の年を数える程昔。どんなに各国間の紛争が起きようと、其れを度外視してもジェールトヴァ大陸の決定は優先されて来ておる」
自らの嫁いだ先であるリアタフテ家の所属するサンクテュエールが公認しているとなると、俺から其れを否定する事も出来ないが・・・。
「愚かだね・・・」
「アポーストル」
「・・・」
「ふむ・・・」
アポーストルはそんな俺の考えを知ってかどうかは分から無いが、此方は見ずに口調と声色にだけ軽蔑を込めて告げて来たのだった。
(此奴の立場的にはそんな感想だけ持っているのはどうかと思うのだが・・・)
此奴は、なんらかの打開策に打って出るべき存在だと思うんだが、軽蔑の目だけを向け傍観者を気取っている様子。
(まぁ、現実問題として口出しを出来ない俺が、此奴にそういうツッコミを入れるのも下品な話だけど)
「・・・」
学院長室でのそんなやり取りを思い返す俺。
その頬に当たる風は、徐々に冷たいものになっていった。
「ジェールトヴァ大陸ってのは、かなり遠いのか?」
無言で俺を運ぶアポーストル。
別に其れに耐えられなくなった訳でも無いが、あまりに時間が掛かる様なら自身で飛んだ方が楽な為、移動時間は確認しておきたかった。
「大人しくしてなよ・・・」
俺が空を飛べなければ、ある意味で閉鎖された空間である空を翔けるアポーストルの杖の上。
そんな所で聞くと、アポーストルの吐いた台詞は、その声色も合わさって中々怖いものだったが・・・。
「あまりのんびりとした空の旅を楽しむ気になれなくてな」
「そんな余裕の無い態度じゃ、あの方との闘いで苦労するよ?」
「悪いが闘うつもりなんて無くてな」
「若いのに情けない話だね?」
「俺がそう若くない事は知ってるだろ?」
「・・・」
喧嘩相手でも欲しそうなアポーストルの態度だったが、欠片程も応じる気の無い俺の態度に、アポーストルはまた口を閉じてしまった。
「・・・正直なところ、この体勢がキツくてな」
「・・・」
「時間が掛かりそうなら、自分で飛びたいんだがな?」
「・・・最初から、そう言いなよ」
「すまんな」
軽く身体をストレッチしながら、短く謝罪の言葉を述べ、俺が闇の翼を広げ様とすると・・・。
「じっとしてなよ」
「もう、近いのか?」
「そうじゃ無いよ。急いでいるんでしょ?」
「まぁ・・・、な」
アポーストルの問いは正しく。
学院長からの呼び出しに応えた時に、もしかしたら直ぐには帰れないかもしれないとは告げて屋敷を出たし、学院からの出発の際も、学院長に屋敷への連絡と手紙を託したのだが、現状を考えると早めにチマーとの話し合いを済ませ、屋敷へと戻りたかった。
「ハッキリと言っておくけど、僕の飛行速度の方が速いよ」
「・・・」
「どんなに優れた魔力を持っていようとね」
「なら、なるべく急いでくれ」
此処で此奴と言い争っても仕方が無い為、頼む形で話を締めた俺。
「それなら、ちゃんと掴まってなよ」
そう応えたアポーストルの杖は、確かに高速といえる其れで空を翔けだしたのだった。
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