第621話
「人の夢の・・・?」
「・・・」
台詞の字面にも、其の表情にも意味を感じさせるデリジャンだったが、湯呑みの中の茶に映る自身を眺める様に視線を落とし無言になってしまう。
「行けば分かるよ」
「アポーストル」
「・・・」
移動開始を促す様なアポーストルだったが、此れはデリジャンを気遣ってのもだけでも無いだろう。
(そう長く俺と一緒には居たくないってか・・・)
「そうだ・・・」
その考えは俺も同じな為、気に食わないが乗ってやろうとソファーから腰を上げ様とすると・・・。
「待つのじゃ」
「学院長・・・」
「分かっておる」
「・・・」
視線を湯呑みに落としたまま、呼び止めて来たデリジャン。
俺が中腰のまま固まっていると、デリジャンは軽く湯呑みに口をつけ。
「此れを伝えるのは、学び舎の長たる儂の役目なのじゃろう」
「・・・」
「暫し・・・、腰を落ち着けるのじゃ」
「はい・・・」
短く溜息を落とし、其の視線は此方へと上げて来たのだった。
「司は此の世界に来て何年位かのお?」
「約八年でしょうか?」
「そうか・・・。あの日が懐かしいのお」
「・・・」
デリジャンがどの日の事か明言しなくても、思い返しているのが入学試験の日の事なのは不思議と伝わって来る。
「お主にも世話になったの」
「構わないよ」
「ふむ・・・」
以前の様にふざけた感じは無く、淡々と短くデリジャンに応えたアポーストル。
そんな様子に、デリジャンは何も言う事はしなかった。
「あの時・・・、大量の廃魔石が発生したのを覚えているかの?」
「あぁ・・・、はい」
「あれらが何処へ持って行かれたか分かるか?」
「え・・・?処分施設とかですか?」
「・・・」
「学院長?」
そういえば廃魔石の処理には今迄、正確な説明を受けた事はなかった。
(魔石は通常魔力が無くなれば、魔力を補充して再利用出来る筈とあの時説明を受けたしな)
「埋めたりするんですかね?」
処分施設と聞いてもデリジャンは応える様子が無い為、安直にそんな答えも提示してみたが・・・。
「近いの・・・」
「え?」
「廃棄しているのじゃ」
「廃棄って・・・」
「ジェールトヴァ大陸にの」
「ええ⁈」
そんな深慮の無い俺に、デリジャンは驚愕の応えを返して来たのだった。
「ジェールトヴァ大陸にって、そんな事をしても大丈夫なんですか?」
「大丈夫な訳は無いのお」
「・・・」
「ジェールトヴァ大陸には有史以降、永き刻人は住んでいなかったからの」
「・・・」
「じゃが、現在の状況は幼児達が捨てられていっておる」
「やはり、処分施設の周囲って危険なんですか?」
「そんなものは無い」
「え・・・?」
「処分施設なんて物が無いのじゃ」
「えええ⁈」
俺は一瞬危険の心配が無いのかと思い小さく声を漏らしたが、続けたデリジャンの言葉に驚愕の大声を上げてしまった。
「でも、それじゃあ・・・」
「当然じゃろう。魔石自体が未だ研究段階の代物なのじゃ」
「・・・」
「制御装置然り、人工魔石然り、其の他の魔石を用いる技術は、全て魔石の謎に迫る過程なのじゃ。ただ、其れ等の有効活用の方法は発見出来ても、廃魔石の処分は今日に至っても発見は出来ておらんのじゃ」
「そんな危険な技術を・・・」
何故と続け様とした俺だったが、デリジャンは・・・。
「お主なら、魔石の力を知っても我慢出来るかの?」
問い掛けるというよりは、試す様な視線を向けながら其れを遮って来た。
「・・・」
そして、当然の事ながら、俺は其れには答えられないのだった。
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