第619話
「お前が約束を守るとは意外だったよ」
「非道い言われ様だね」
「さてな?」
場所を提供してくれているデリジャンに気を遣う様に選んだ言葉は以前とよく似たものだが、互いの心の中は以前の其れとは全く違うものになっていた。
「儂も驚いたぞ?数年振りに顔を出したと思ったら、急に司を呼んで欲しいとはの」
「ふふ、僕はサプライズが好きなんだよ」
「ふむふむ、なるほどの」
「・・・」
それは絶対サプライズとは言わないのだが、偶々屋敷に居たタイミングで良かった。
(まぁ、デリジャンに頼んで呼び出したのは、万が一にもルーナと出会さない為だろうが・・・)
それが分かった為、正直なところ身体の痛みはあったが此処に来ていた。
「激戦だったんだね?」
「ん?あぁ・・・」
「そんな状態であの方に挑むつもり?」
「挑むだけが全てじゃないさ」
「じゃあ?」
「俺は既に七つの力は手に入れた。彼奴から八つ目の力を手に入れれば、彼奴の邪魔をするつもりは無い」
「互いに不干渉、不介入を貫く訳だ?」
「あぁ。それが一番現実的だろ」
完全なる闇の因子を持つチマーと、其れの一部の能力だけを分け与えられた俺との力の差は歴然で、俺の最大の力は未だ螺閃。
そして、チマーには俺の放つ闇の魔法など一切通用しないのだ。
(別の魔法を大魔導辞典に記す手も有るが、鎖の件も考えると命を保ちつつ、チマーを倒せる魔法というのが難題だからなぁ)
「何の話かは分からぬが、やはりお主は遠くに行ったのお」
「学院長・・・」
「最初の試験でとんでもないものを見せられた時から、いつかはこんな日が来るとは思っていたがのお」
「・・・」
学院長の言葉に、入学試験の時の事を思い返す俺。
あの時、初めて使用したのが龍神結界・遠呂智だったのだ。
「それで、今度はどんな事をやろうとしてるんじゃ?」
「そうですね・・・、最後の神龍、闇の神龍チマーに会う為にジェールトヴァ大陸に行こ・・・」
「何じゃと⁈」
「え?学院長?」
「お主、正気か⁈」
「え?え〜と・・・?」
チマーの話を始めると、瞳に伸し掛かる皺を目一杯持ち上げ、其の双眸を見開いて来たデリジャン。
「チマーの事をご存知なんですか?」
デリジャンもアポーストルとは旧知の仲なのだし、どの程度迄、話を聞いているかは分からないが、チマーの力の話位なら聞いててもおかしくはないだろう。
然し、どうやら俺の考えは間違いだったらしく、デリジャンは即座に首を振り・・・。
「そうでは無い。お主、今ジェールトヴァ大陸に行くと言ったであろう?」
「はぁ?それが何か・・・?」
ジェールトヴァ大陸。
其処へと向かう為に、彼女は俺に特殊な魔法を与えてくれたのだし、過酷な大地という話は聞いているが、デリジャンの反応は真に驚愕といえるもの。
「アポーストル。お主が司を・・・?」
「僕が望んだ訳では無いけど、案内はするよ」
「何を考えているんじゃ‼︎」
「っ⁈学院長⁈」
机に足を打つけながらも勢いよく立ち上がったデリジャン。
いつもの穏やかな相貌で落ち着いた口調の彼は何処かへ去ったかの様に、現在の彼は怒気を隠す事をせずにアポーストルを見下ろしていた。
「落ち着いて下さい。学院長」
「司・・・。お主、本当に其の意味を分かって、そんな事を考えているのか?」
「勿論です」
「っ‼︎」
確かに其処がどんな場所かは正確には分かっていないが、其処に行かなければチマーに会う事は出来ない。
(以前、会った時の感じでは其処から出て来るのはかなり特殊な事例だった様だし、呼び出して交渉に入るなんていう弱みをみせれる関係性では無いしな)
「私も其処がどんな場所かは分かりませんが・・・」
「やはりか・・・」
「でも、その為に・・・」
俺は彼女の事を暈しながらデリジャンに説明を始めると、デリジャンは一応落ち着きを取り戻しながら、ソファーへと腰を下ろしてくれたのだった。
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