第571話


「さて・・・、どうするかの?」

「叩き落として喰らったらどうだ?」

「気品を欠片程も持たぬの」


 一直線に自身に向かって来る俺を鳥にでも例えたのだろう。

 ナヴァルーニイは狐のエルマーナに、俺を食す事を勧めていた。


「其れは・・・、御免被る」

「此方の台詞じゃ」

「そうかい・・・?剣‼︎」


 眉間に皺を寄せ、吐き捨てるエルマーナ。

 俺は応える訳でもないが、闇の双剣を詠唱し背負った。


「来るのじゃ‼︎」

「さて・・・」


 エルマーナが張り上げた声は、俺に対するものでは無く、自身の魔法に対してのもの。

 其れが理解出来た俺だったが・・・。


「なっ‼︎」


 気付かない風に、闇の双剣で漆黒の連撃を放つ。


「生意気な‼︎」


 紅蓮を纏わせた金色の三尾で、其れを払うエルマーナ。


「此れは本来俺のものだが・・・、なっ‼︎」


 貰えるものなら使用料を取りたいくらいの気持ちもある俺は、不満を打つける様に、朔夜の刃で闇夜を斬り裂く。


「・・・っ‼︎」

「がぁぁぁ・・・」

「ぐ・・・」

「あああぁぁぁーーー‼︎」


 両手に持った槍で、振り下ろす朔夜の刃を受けたエルマーナだったが、俺は構わず力ずくで槍ごとエルマーナを吹き飛ばした。


「ちぃ・・・」

「これで・・・」


 追撃の刺突を放つ為、矢を絞る様に朔夜を持つ手を引いた俺だったが・・・。


「面倒事を」

「⁈」


 視界の端に光が弾けるのが映り・・・。


(間に合わない‼︎)


 自身に迫る稲光一閃。

 其れに気付いた俺は、体勢から影に飛び込む事も、衣で払う事も不可能な事を理解する。


「イ・・・」


 朔夜に闇を纏わせ、僅かな可能性に賭け様とした俺の鼻先に、紅蓮が一閃。


「っっっ⁈」


 稲光を紅蓮が飲み込み、眼前からの熱風の衝撃波に、足元に力を入れながらも、眼を閉じてしまう。


(何が・・・?)


 一瞬、頭の中が混乱した俺の耳から飛び込んで来たのは・・・。


「大丈夫ですか?司様‼︎」

「フレー・・・」


(そういう事か・・・)


 フレーシュの声で、其れは耳から直接俺の脳髄に届き、瞬時に状況が理解出来た。


「それなら・・・、装‼︎」


 俺は朔夜に漆黒の闇を纏わせながら、閉じていた双眸を開き、既に距離を取っていたエルマーナを見据え、其の背後に控えるナヴァルーニイにも、視線で牽制をする。


「ちぃ・・・‼︎」

「役に立たぬ一族だ」


 眉間に刻んでいた皺を、より一層深くしているエルマーナの背中に、ナヴァルーニイはその先で激戦を繰り広げている九尾達も見ながら、敵の俺が聞いても随分な事を吐き捨てていた。


「あんな紛い者と、妾を同列に扱うでない」

「違いが分からんな」

「古臭さしか誇る事の無い種族が・・・」


 互いを貶しながらも、詠唱を始めるナヴァルーニイとエルマーナ。


「仲間割れをしてくれても良いんだぞ?」

「下らぬ」

「そもそも、此奴等の事なぞ思ってはおらぬのじゃ」


 挑発めいた俺の言葉にも、何でもない風な反応しか示さなかった。


「・・・」


 エルマーナが詠唱を結び終えた事で、夜空に淡い灯りが灯されていく。


「転が・・・」


 エルマーナが炎の弾を降らそうとした・・・、刹那。


「・・・っ⁈」


 其れへと着弾していく、水を纏った矢の雨。


「流石に・・・」


 俺は迂回する様に空を翔け、ナヴァルーニイを目指すと、俺が直前迄居た地点にも矢が降り注ぎ、突き刺さっていった。


(俺が動かなければ、放たなかったとは思うが・・・)


 迷いが無いのはフレーシュからの信頼なのか、それとも俺に思うところがあるのか?

 ただ、闘いが終わったら、フレーシュには礼も含めて、優しくする事を強く誓ったのだった。

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