第570話
「御託はいいから、働け」
「無礼な男じゃ」
先程の護符は、ムドレーツのマジックアイテムだったのだろう。
突如として、眼下に現れたエルマーナは、ナヴァルーニイと意味は感じられない、然し、緊張感のあるやり取りを繰り広げていた。
(此奴等は結局真の意味では仲間では無いのだろうが、スラーヴァが最終的にどう動くつもりなのかが不明だしな)
スラーヴァとて、最終的には此のザブル・ジャーチを救うつもりと思われるし、そうなると、凪を含めて四人の秘術継承者の力は絶対に必要になる。
(守人達だって、追放者達を仕留めた後に楽園に帰る為には必要な訳だが・・・)
そうかといって、凪は勿論だが、ディアやフェルトだって、守人達などに奪われるつもりもないのだが・・・。
「・・・」
「久方振りだな、エルマーナ?」
「気安く妾の名を吐くでない」
キツイ言葉を淡々と吐き捨てるエルマーナは、俺を見上げながらも、視界の端には凪を映そうとしているのが見て取れた。
「・・・」
(分かってくれてるか・・・)
俺が瞬時に送った視線に、フレーシュは頷く事より、番えた矢に魔力を付与する事で応えて来た。
いくらフレーシュがこの数年の間、ブラートに師事し、付与魔法をはじめとする多様な魔法や弓術を習ったとはいえ、エルマーナに一対一で挑むのは無謀だが、凪とて飛行魔法を使う事は可能。
「凪っ」
「パパ・・・?」
「絶対に無理はするんじゃ無いぞ」
「・・・っ」
ある種の懇願を込めた視線を送る俺に、何とも言えない表情を返して来た凪。
(お前を奪われれば、俺は生きる意味を失う事になるんだ)
「・・・うん‼︎」
「いい子だ」
俺の視線に込めた想いを理解出来たのだろう。
頷く凪は、自身の役目を理解している様だった。
「ふんっ、調教は上手くいっている様だな」
そんな言葉で俺と凪のやり取りを評して来たエルマーナに・・・。
「そういえば、お前は秘術に選ばれなかったんだな?」
「愚かな。妾にそんなものは必要ない」
「ディアは其れを為したがな?」
俺はやり返す様な言葉で応える。
「あんな紛い者が為す様な事なら、妾が其れを為さなかったのは正解であろう」
「ディアは、一族の者を穢させたりはしないがな」
「・・・ふんっ」
俺から視線を逸らしたエルマーナは、其の整った高い鼻を鳴らしたのだった。
「どんなに大層な志を持とうと、スラーヴァのやっている事はそういう事だ」
「知った風な口を・・・‼︎」
流石に旦那の事を悪く言われる事は不満なのか、エルマーナは逸らしていた視線を俺へと戻し、其の双眸には、気の弱い者なら逃げ出してしまいそうな程の眼光の鋭さがあった。
ただ、俺だって正義を語る訳では無いが・・・。
「事実だろう?其れがお前達の選んだ道だ」
「貴様なぞに、非難をされる覚えはない」
「だろうな」
別にスラーヴァがどんな道で此の世界を救おうと、其れは彼奴の自由だろう。
そもそも・・・。
「正しい道を選んだ者が勝利出来るなんて甘い考えは持ってはいないしな」
「ならば、黙って見ておれ?」
「悪いが断ろう。俺には俺の選んだ道があるしな」
「貴様の話なぞ聞くに値せぬ」
「そうかい?其れなら俺は、自分の選んだ道の正しさを証明する為に、必ずお前達に勝利をしてみせる‼︎」
朔夜を持つ手に力を込め、横目で確認すると、フレーシュの準備は完了していた。
「小癪な動きじゃ」
「無駄話のし過ぎだ」
「貴様が紛い者を仕留め損なうからであろう?」
「・・・」
「言いたい事だけを・・・」
エルマーナとナヴァルーニイのやり取りに、狙いどころは二人の連携の隙だろうと思うが・・・。
(そもそも、連携出来ない事を理解していて、其れをする事も無いか?)
そんな事を思いつつも、俺は宙を蹴り夜空を翔け出したのだった。
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