第572話
「雑な仕事を・・・」
「互いに思いやりの心を持つ事を勧める」
「愚者の思い上がりか」
俺からの忠告を一切意に介さず、ナヴァルーニイは即座に俺へと集中する。
(さて・・・)
ナヴァルーニイが此方に来るという事は、エルマーナがフレーシュ及び、共にいる凪へと向かうという事。
(流石に、此処でエルマーナがナヴァルーニイの背を守らないという事は考えられないな)
そう考えると、距離的には微妙な感じで、フレーシュの射撃による牽制だけで、エルマーナと距離を保ち続けるのは難しいかもしれない。
(ミニョンは混戦の中、戦力的には離れるのは・・・)
魔法も体術も中位のグループの上に居るミニョンは、サンクテュエール軍の選抜された精鋭達の中に入ってもトップクラスの戦力で、ミニョンがフレーシュの援護に向かうのは悪手となるだろう。
(九尾達に背後を突かれるのを防がないといけないからな)
そうなると・・・。
「・・・」
「・・・パパッ」
俺が軍艦に向かい視線を送ると・・・。
「エアショット‼︎」
凪が風の弾丸を無詠唱でエルマーナへと放つ。
「下ら・・・」
「はぁっ‼︎」
「・・・っ⁈」
其れを払おうと、自身の尾に炎を纏わせたエルマーナへと、フレーシュは素早く矢を射る。
「ちぃっ‼︎」
舌打ちをしながらも、フレーシュの射撃から距離を取る為に駆けるエルマーナ。
(良い子だ、凪)
「パパ・・・。うんっ」
俺は口には出さなかったが、思いは凪へと伝わったらしく、凪は頷きながらも、再び牽制の為の詠唱を始めた。
(あれ位でいいだろう)
凪の魔術のレベルがどの程度かは、守人達には伝わっていない筈なので、此処で決定打になり得る魔法を使用する事は、凪の危険度を高める事になる。
その為、下級の風魔法による牽制位が、フレーシュの助けになりながらも、凪に及ぶ危険が最も低いと考えられた。
「本当に役に立たんな」
分かり易く不機嫌な表情を浮かべるナヴァルーニイだが、此奴はこうやる事によって冷静さを保ってる様に感じられる。
(挑発とかに乗ってくれるタイプだと楽なんだが・・・)
俺との距離を見ながら、詠唱を刻んでいくナヴァルーニイ。
その様子に慌てたものはなく、悠然と俺の到着を待つかの様な姿勢だが・・・。
(時間稼ぎの線も考えた方が良いのか?)
此処にナヴァルーニイとエルマーナしか居ないという事は、他の場所にスラーヴァ、ルグーン、ムドレーツ、グネーフ等が居る可能性がある。
(ルグーンが直接的な戦力になるかは微妙だろうが、その他の三人が同じ場所に集まって居たりしたら・・・)
ムドレーツの直接的な戦闘能力もルグーン同様分からないのだが、魔導巨兵を造った事を考えると、予備を保有していたとしても不思議では無い。
そして、そうなって来ると、俺達が此処で足止めされている現実は、守人達の狙い通りという可能性もあるのだ。
(最初からリヴァルだけが狙いという可能性もゼロでは無いが・・・)
とりあえず、リヴァルさえ仕留めてしまえば、どんな形で此の闘いを治めたとしても、以降は全てのディシプルに関する決定に正統性はなくなるのだ。
(だが、其れを指摘する者は居たが、リヴァルが中心となり今回の策を決め、其れを譲る事はしなかったからなぁ)
根底に流れる戦士の血がそうさせるのだろうが、闘わずして何かを得る事を良しとしないリヴァルの考え方と、其れを受け入れるリヴァルに心酔する現在ディシプルの中心に居る貴族や国民達。
国民がリヴァルを支持しているから、今回の避難が迅速に行えた事もあり、全てが悪い事でも無いのだが・・・。
「闘いの最中に・・・」
そんな声を漏らし、俺へと構えるナヴァルーニイ。
「安心しろ。集中は切らしていないさ」
「心配をする理由はない」
「そうかい?」
やり取りが途切れたタイミングで、ナヴァルーニイの手元の魔法陣から放たれたのは無数の光球。
(此れは・・・、確か)
シャボン玉の様に、穏やかに漂いながら宙に浮く光球。
ブラートから得ていた情報で、面倒な状況になった事を理解した俺は、地上へと翔ける。
(全部飲み込むとなると、結構な負担なんだが・・・)
そんな俺へとナヴァルーニイは、無数の光球の中から数発を送って来る。
「ちっ・・・‼︎波・・・」
光球を撃ち消す為に、漆黒の衝撃波を放つが、其れが光球へと着弾した・・・、刹那。
「・・・っ」
衝撃波を受けた光球は、激しい稲光を放ちながら霧散していったが、漂う雷の霧を受けた俺は、微かながらも確かなダメージを受けたのだった。
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