第560話


「パパァ?」

「あぁ、凪。そうだったな」

「・・・」


 大人の会話を黙って大人しく聞いていた凪。

 同世代の子供と比べると、かなり大人びている凪だが、流石に耐えられなくなったのか?

 それとも・・・。


(さっき、アンジュの名前が出た時に、一瞬微妙な空気を発したからな・・・)


 これ以上、自分が黙っていて、其方の方に話が進むのが耐えられない為、仕方なく話に加わろうとしたのだろうか?


「皆さん・・・。凪」


 だが、とりあえず黙ったままにさせとくのも良くない。

 俺は凪の背を押し、皆の前に出したのだった。


「凪=リアタフテです。よろしくお願いします」


 凪はブラートにしたのと同じ様に、再び自己紹介をした。


(いや、若干女を増してる様に感じる・・・)


 我が娘ながら、恐ろしいところをみせる凪。


「これは、お姫様。挨拶が遅れました。私は此のディシプルで将軍を務めています。フォール=ロワヨテと申します」

「よろしくお願いします。フォール将軍」


 フォールはそんな対応に慣れているのだろう。

 凪を淑女として扱い、貴族に対する礼儀で応じた。


(こういうところは、生まれながらの貴族の凪らしさだな。フォールも一国の軍の重要な役割を務めている者だしな)


「頭のところのお嬢ですか。あっしは頭の船で船長を任されておりやすナウタでさぁ。よろしく頼みますぜ」

「はんっ、こましゃくれたガキだねぇ」

「よろしくお願いします、ナウタさん。え〜と?」

「・・・シエンヌだよ」

「シエンヌさん」


 対してナウタとシエンヌは、そのキャラクターに似合った挨拶をし、凪もシエンヌに対しては顳顬をピクリと動かしたが、流石に言葉にする事はせず、名の催促だけをしていた。


「ふっ・・・」

「どうかしましたか、フォール将軍?」

「これは失礼しました。以前、演舞会で拝見したのですが」

「そうですか・・・」


 フォールが自身を眺めた後にみせた、どこか感慨深げな反応に、首を傾げた凪だったが、フォールの発言にはブラートとの時とは違った対応をした。


(まぁ、ブラートの件で、この三人の実力もある程度想像しているだろうし)


 三人とも魔流脈が敏感なタイプでは無いし、魔力も高く無いが、そのくぐり抜けて来た死線の数ではブラートに劣る事は無いし、自身に向けられる観察には気付くだろう。


「フォール将軍はディシプルの将軍ですから、当然なのでしょうね」

「いや、そうではなくて、良く似ているなと思ってね」

「似ているですか?」

「うむ。母上にな」

「ええ⁈ママを知っているの⁈」


 演舞会の時に、言っていた内容を凪に伝えたフォール。

 そんなフォールに、凪は驚いた声を上げ、俺を振り返って来た。


「あぁ、そうだよ」

「そう・・・、なんだ」


 何とか口調を戻そうとしたが、それが上手くいかない様子の凪。

 流石にフォールの様相は特徴的過ぎるし、其の人物とローズが知り合いとは意外だろう。


(元フェーブル辺境伯とフォールとの過去の争いに付いては、まだ、若干ぼかした内容でしか習ってないからな)


 だが、フォールは・・・。


「ママとは何処で?」

「戦場です」

「え・・・?」

「敵として、対峙しました」

「・・・⁈」


 実直な人柄をそのまま表す様に、過去の関係を凪に告げ、其れを受けて凪が再び俺を振り返ったので、俺は無言で頷いたのだった。


「凪様がお腹の中に居る時の事でした」

「・・・」

「恥じるべき過去です」


 軽く眼を伏せ、昔を思い返す様にしたフォールは、凪へとリアタフテ領での争いを包み隠さず告白したのだった。


「そうだったのですね」

「本当に申し訳ない」

「・・・」


 凪に対して深く頭を下げるフォール。

 凪はどう応じて良いか分からない様子だった。


(フォールは、真面目な性格の為もあるが、これから初戦に臨む凪に対して、若くして戦場に立った自身の経験から、戦争の意味も教えたいのだろう)


 其の意図を感じとる事の出来たその場に居た皆は、凪の様子を眺めていた。


(凪は流石に其の意図には今は理解出来ないだろうが、闘いが終わればいやでも理解させられる機会もあるだろう)


「ママは・・・」

「・・・」

「ママはやっぱり強かったですか?」

「うむ。其の強さだけでなく、気高い女性だった」

「そうですかっ」


 凪はフォールの答えに満足した様な表情を浮かべ、結局其の話は終わってしまった。


「・・・ふっ」


 だが、フォールは其れに、何処か遠くを見ながら笑みを浮かべていたのだった。

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