第559話


「真田殿」

「フォール将軍・・・、それにナウタさん」


 俺達が会話を続けていると、海岸にやって来たのはディシプル将軍のフォールと俺の船の船長であるナウタ。


「戻られたのだな」

「えぇ、ついさっきですが」

「お疲れ様でやんした」

「えぇ・・・。ナウタさんは?」


 気になったのはナウタの同行で、フォールは俺達に今後の対応の説明に来てくれたのだろうが・・・?


(真田家は他国の貴族という立場で、どんなにアンジュが平民と近いところで生活していても、特別な対応が必要になるし、此処ディシプルには、現在フェルトという立場をどう位置付けするのが適切なのか、複雑な人間が住んでいるからなぁ)


「あっしは、フォールの旦那から連絡を受けて、出航の準備が出来たので報告に来やした」

「出航・・・、なるほど」

「ああ。そうして貰えると助かるな」

「分かりました」


 ナウタの言葉に同行の理由と今後の家族の行動方針を理解する。


(確かに魔導船が一番安全な場所かもしれないな)


 流石に俺と同行し戦場に出て来ても、今回は凪の事も有り対応出来ないし、単純に洋上に出るだけなら危険も有るだろうが、魔導船を捉える程の速度はそうあり得ないだろう。


「どうか、よろしくお願いします」

「やめてくだせぇ、頭」


 俺からの礼にいつも通りの照れた様子で手を振って来たナウタ。

 だが、彼のお陰で俺は凪の事と戦闘に集中出来るし、其れが自身の力になっている事は疑い様の無い事実だった。


「へっ、まぁ、やってみまさあ」

「えぇ、頼みました」

「そういえば、もうアンジュには会ったかな?」

「・・・」

「いえ、まだ・・・」


 フォールの口振りは、どうやらアンジュには予定を伝えている様なものだったが・・・。


「本当に、何してんだろうね」

「え?シエンヌさん・・・」


 背後から掛かった声に振り返ると、其処に居たの総本山で別れていたシエンヌで・・・。


「ブラートとイチャつく前に、やるべき事があるだろうに」

「す、すいません・・・」


 隠れ家へと直行しなかった俺へと、アンジュの代わりに不満を述べて来てくれたシエンヌ。


(まぁ、イチャつくは聞き捨てならないんだけど・・・)


「ふっ、勘弁してやってくれ」

「ブラート・・・。アンタにも言ってるんだよ」

「ふっ、なるほどな」

「はぁ〜、アンタは本当に・・・」


 俺のフォローをしてくれたブラートも、シエンヌからすると共犯者らしく、仕方なさそうに溜息を吐いた。


「中々、大変そうだな」

「フォール、良いのかい?」

「ああ。直ぐに戻るつもりだが、刃にも会っておきたくてな」

「そうかい」

「フォール将軍・・・」


 刃も剣の師匠であり、尊敬する人物であるフォールが顔を出してくれれば、喜ぶだろうし、今後の不安を払うものになるだろうが、フォールの不吉なものを感じさせる発言に、俺は感謝より先に心配そうに声を掛けていた。


「いや、そういう事ではないんだ」

「そうですか・・・」


 俺の表情から、その内心を読み取ったフォールは、即座に其れを否定して来たが・・・。


(勿論、戦場に出れば何があるかは分からないし、俺もその覚悟は毎回している。ただ、この人の纏う空気は、死など恐れないどころか、死に場所を求めるものを感じさせるからなぁ)


「司はアンタの事を心配してくれてるんだよ」

「シエンヌ・・・、分かっているさ。感謝している」

「本当かねぇ」

「参ったなぁ」

「ふっ」

「フォールの旦那も、形なしですな」

「シエンヌさん・・・」


 今度はフォールが責められる番の様で、ブラートとナウタは其れを面白そうに見ていた。


(然し、司・・・、な)


 シエンヌから自然に出た俺の名に、擽ったさを感じたが、俺は悪い気はしないのだった。

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