第550話
「妄想の逃げ場って・・・?」
救世主の告げて来た内容に、俺は微妙な感じを隠せなかった。
「そのままの意味」
「・・・」
「楽園の多くの存在は、世の妄想の中から創造主が創ったものだから」
「何の為に?」
「神の真似事だよ」
「真似事?いや、創造主って・・・?」
「正確には神と近しい存在であって、神では無いわ」
俺は会った事は無い為、救世主の事は世界を創った存在という事で神と同等の存在と、勝手に思っていたが、実際のところは違ったらしい。
「創造主は神の下で働く管理者の様な存在なの」
「管理者?」
「ええ。それも、創造・・・、もっと正確に言うなら、其処に至れない妄想のね」
「・・・」
先程迄からは信じられない様な、結構辛辣な発言をする救世主だが、ルーナの相貌を持つ為、余り不自然さは無かった。
(・・・すまん、ルーナ)
ただ、此奴の場合は自身の存在に対するものでもあり、単純にキツい言い方とも言えないのだが・・・。
「どうかしたの、司?大丈夫?」
「ん?あ、あぁ・・・」
「そう?キツいのなら言ってね?」
「・・・」
(そう言うお前の方がキツそうだとは言い辛い雰囲気なのだが・・・)
その純白の肌が無ければツッコミを入れ易いかもしれないが、救世主の頬は純白より、若干蒼白へと寄っている状態だった。
「・・・」
「司?本当に・・・」
「それなら、創造には別の管理者がいるのか?」
「え?ええ。と言っても創造神よ。全ての創造を司っているの」
「じゃあ、他にも創造主は?」
「勿論。別の役割を管理する者は存在するわよ」
「そうなると、此の世界と楽園の創造主の位置付けは・・・?」
「序列は最下位ね」
「・・・」
まぁ、そうなるだろうし、其処には一切の驚きが無かった。
(何といっても、所詮は妄想だからなぁ・・・。他の管理者・・・、創造主達からどう見られているかは想像に易いな)
でも、気になるのは・・・。
「何故、楽園やザブル・ジャーチを創ったんだ?管理者権限程度でそんな事が許されるのか?」
「勿論、許されないわ」
「じゃあ・・・」
「他の管理者達への劣等感からの暴走よ」
救世主の告げる内容は、創造主の理屈にならない其れで、創造神が許せるとは思えなかったが・・・。
「放置しているのよ。創造神は・・・」
「放置って・・・?え?」
「其れは、創造主が此のザブル・ジャーチを創ったのと同じ理由よ。どんなに不出来な子でも自分の子は可愛いのよ」
「なるほど・・・、な」
救世主の告げる内容は、人の親となった俺には、理解に苦しむ程の事では無かった。
幸いな事に、三人の子供達は真っ直ぐと育ってくれているが、もし誰かが道を外した時、想像の状況の今なら必ず止めると宣言出来ても、実際にその状況になってしまったら、自身がどう対応するかは、まだ自信が持てなかった。
「それに、ただ暴走した訳では無く、仕方の無い部分もあるのよ」
「仕方無い?」
「ええ。司の来た世界。特に恵まれた国では、多くの人が妄想に生きれる幸運な状況にあるでしょ?」
「まぁ、そうなるのか?」
「そうして生まれた妄想の多さに、押し潰されそうになった創造主が、置き場として創ったのが楽園なのよ」
「・・・なるほど」
それで許される訳では無いだろうが、俺個人としては、ローズやアンジュと出会い、颯と凪、刃という宝物達との出会いを与えてくれた救世主に対して、其処迄単純に悪い感情は湧かないのだが・・・。
「でも、最下位とはいえ、これだけの世界を創れる力は有るんだな」
「そうね。ただ、創造主のみで創った訳では無く、世から集まった妄想の力も有るわ」
「なるほど」
創造主の創った楽園と此のザブル・ジャーチ。
(でも、そうなると人族の神とやらも、正確には神では無い訳か・・・)
俺は既に此の場から立ち去った男を思い浮かべながら、そんな事を思ったのだった。
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