第551話


「じゃあ、君が生まれたのは」

「司の強い想いが創造主の元に届いて、司の想いに触れた創造主が私を創ったのよ」

「俺の想いに・・・」

「・・・っ」

「大丈夫か?調子が悪いなら・・・」


 会話の途中で、急に頬を薄紅色に染めた救世主。

 流石に短時間での体調の変化に、俺が心配そうに声を掛けて覗き込むと・・・。


「大丈夫っ‼︎」

「???」


 何か選択肢を間違えたらしく、救世主は不満そうに頬を膨らませ、外方を向いたのだった。


(まぁ、よく知らない女だし、此奴にどう思われてもいいのだが)


 ただ、俺のルーナに対する想いってのは、そんな強いものだったのかと、自身の事ながら少し呆れてしまうが・・・。


(その時は真剣だったが、高校生にもなって夜中に外套に身を包み、エアガンを背負い、自作の大魔導辞典とルーナを内ポケットに忍ばせ、月明かりの下を駆ける)


 ・・・うん、危ない奴だな。

 その異様さが、俺の想いの強さを証明してるともいえるが、正直一人で居たら、自分の頭を壁にでも打ち付けたい程に恥ずかしい過去だった。


「素敵だったなぁ・・・」

「え?何か言ったか?」 


 昔の事を思い出し、少し身悶えしそうになった俺をよそに、救世主は何かを呟いていた様だが、それは別の事に神経を持っていかれていた俺には何と言っているのか分からず、聞き返してみたが・・・。


「う、ううん。何でもないっ」

「・・・?そうか?」

「うん‼︎」


 どうやら、救世主はそれに付いて答える気は無い様だった。


(それは構わないんだが、そんな弾む様な声で返事をしてくれなくて良いんだがな・・・)


 発する言葉とは裏腹といえる自身の内心に、救世主に対して、若干悪い事をしている様な感覚になって来る俺。


「でも、幾億はともかく、幾万は確実にあるだろう妄想の中で、創造主は何で俺の其れを選んだんだ?」

「それは・・・」


 答え辛そうな様子の救世主。

 だが、そんな反応を見ると、此れに付いては是非とも聞いておく必要があると感じる。


「答えてくれ」

「・・・」

「なぁっ」

「・・・っ」


 喰らいつく様に迫る俺に、救世主は顔を逸らす。


「・・・ぅ」


 すると、透き通る様な肌を持つ首筋には、薄っすらと透明な滴が滲んでいるのが眼に入り、俺は急停止を掛けられ、呼吸を忘れ、身を固めた。


「・・・」

「・・・」


 無言で見つめ合う俺と救世主。

 然し、不思議と辺りを包む静寂に、居心地の悪さを感じる事は無く、俺は静かに救世主の言葉を待った。


「創造主はね・・・」

「・・・」

「司によく似ているわ」

「え?俺に?」

「ええ。勿論、全てじゃ無いし、司の方がずっと素敵なのよ‼︎」

「お、おぉ・・・?」


 救世主は自身の言葉を打ち消すかの様に、強い言葉で俺を褒めてくれたが、正直な話、それはどうでもいい事な俺は、ただただ、その圧に退きながらも、創造主が俺に似ているという部分だけが気になった。


「似ているってどういう事だ?」

「どういうって?」

「其処に意味はあるのか?」

「ううん?」


 深い部分に何か隠された意味でもあるのかと思い聞き直す俺に、救世主は軽く首を傾げながら、其れを否定して来た。


「じゃあ・・・?」

「もっと、単純な部分よ」

「え?」

「心の弱さやハッキリしないところ」

「・・・」

「司には其処に優しさがあるんだけどね」


 最後にフォローを入れながら閉めてくれた救世主だったが、その前の否定の部分はかなりキツイもので、然し、俺は其れを否定する事は出来ず無言になってしまう。


「彼もよく似ているのだけれど・・・」


 そして、奴の去っていた先を見つめながらそんな事を漏らした救世主。

 其の双眸は、深い憂いの色に染まっていたのだった。

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