第531話


「そういえば、アポーストル」

「何だい?」

「お前、チマーの正確な居場所は分からないと言っていたが?」

「そうだったかな?」

「・・・」


 俺の意識が自身に移った事で、救世主に対する態度が気にならなくなったらしいアポーストルは、若干いつもの空気感を取り戻して応えて来た。


「そうだったよ」

「そう?」

「でも、アッテンテーター帝国にチマーを連れて来たよな」

「あれ?そうだったかな?」


 のらりくらりと恍ける様な態度だったアポーストル。

 然し・・・。


「あら?チマーと会ったの、アポーストル?」

「・・・ええ」

「そう。どう?元気にしてたかしら?」

「そうですね。お変わりは無かったです」


 救世主からの質問には、真面目に答えなければいけないという事らしい。

 アポーストルは、チマーと知り合いらしい救世主からの質問に答えていた。


「それは、良かったわ。でも、彼女の居場所は分からない筈よね?」

「ええ。ただ、偶々ジェールトヴァ大陸へと顔を出した時にあの方から接触されまして、その時に子供達の捜索を依頼されたのです」

「そうだったの・・・」

「・・・?」


 ジェールトヴァ大陸という名が出た瞬間に、声色が落ち込んだ救世主。

 未だ、其処がどういう場所かは分からないのだが、アポーストルもそうだったし、ヴァダーも・・・。


(どうしても、楽園から追放された者やその関係者は、其処の話はしたくないらしいな)


 然し、俺の発言を受けて話を合わせた可能性も否定出来ないが、救世主の口振りではチマーの正確な居場所が掴めないというの本当の話らしい。


「正確な居場所が分からないと言ったが、同等の力が有ると言われる貴女でも無理なのか?」

「ええ、申し訳ありません」

「そうかぁ・・・」

「彼女の持つのは闇の力。自身を探る力を妨害したり、身を隠す様な術も多いのです」

「なるほどな」


 俺でも影に潜れば発見される事は無いし、闇の神龍であるチマーならそれに近い力を持ち、闇の底に居れる時間も因子を持っている為、俺よりも間違い無く長いだろう。


(そうなると、やはり大陸を上空から探索していくしかないのか?)


「例えばだが、お前がもう一度ジェールトヴァ大陸に行ったら、チマーから再び接触されるって事は?」

「無いね。あの方に何のメリットも無いからね」

「メリットねぇ・・・。そういえば、チマーは自分の力で子供達・・・、人工魔石の在り処を発見する事は出来なかったのか?」

「彼女はそういう細かい術式は得意では無いのです」

「ふ〜む・・・」


 思わず漏れた唸り声は、どうにもならない状況の中へと掻き消されていく。


(此奴等が本当の事を言っているかは分からないが、二人共が言うのだから本当なのだろう)


 以前に、アッテンテーター帝国でアポーストルの言っていた、俺への支援をアポーストルに頼んでいる人物が居ると言っていた・・・、あれはアポーストルの現在の態度から考えても、此の救世主の事だろう。


(何の目的が有るかは分からないが、此奴は俺への協力をする気は有るのだろう)


 一番分かり易い目的は、自ら倒す子は出来ない創造主を倒せる可能性の有るのが、俺のだという事だろうが・・・。

 其の為に、最も重要となって来る龍神結界・遠呂智。

 此の魔法を復活させるには、最低限、俺がチマーに会えなければ話にならない。


(その邪魔をする訳は無いだろうし、手段が有れば協力もするだろう)


「それなら、ヴェーチルはどうだ?」

「ヴェーチルですか?」

「あぁ。彼奴も絶対に発見する必要が有るんだ」


 ヴェーチルに関しては、リアタフテの秘術の習得に凪も会わなければいけないのだが・・・。


(出来れば危険の少ない状況下で其れは行わせてやりたいし、何より・・・)


「リアタフテ、ザックシール、ノイスデーテ、そしてファムートゥの四家に伝わる秘術。其れ等を何処で、いつ使えばいいものなんだ?」


 ルグーン達は其れを知っていて、颯と凪を拐い、ミラーシを襲撃したのだろう。


「刻が来れば、楽園への道を封印する結界が姿を現します。其の結界を破る為に必要なものなのです」

「刻とは?」

「そう遠くは有りません」

「ハッキリとは分からない?例えば、早める為の方法等は?」

「すいません。そもそも、私達と皆さんとでは、刻の概念が違うのです」

「・・・なるほど」


 それは、ヴァダーとの話でも感じた事だが、仕方ない事なのだろう。


「それで、ヴェーチルだが・・・?」


 俺は仕方なく最初の質問の答えだけでもと思い問い掛けると・・・。


「次に現れる場所は分かります」

「え・・・?」


 正直なところ、驚きの答えが返って来たのだった。

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