第532話


「え〜と?」

「そうですね。分かりますとお答えさせて頂きました。事実掴めているで・・・」


 落ち着いた様子で、奇妙ともいえる表情を浮かべた俺へと、自身の発言を肯定して来た救世主。


(正直、話の流れや、今迄出会った奴等とのやり取りから、全く期待をしていなかったんだが・・・)


「次に現れるというのは、地上に休息に来る場所の事で?」

「ええ。そう考えて頂いて、問題ありません」

「それは、何故?」

「皆さんに説明するのなら、予知という表現が一番近いのでしょうが・・・。すいません、此れも特別な概念ですので・・・」

「・・・」


 本当に申し訳なさそうにする救世主だったが、其処は気にするところでも無いかと思う。


(重要なのは、概念の感覚を摺り合わせる事では無く、より精度の高い情報を共有する事だ)


 正直なところ、共有というよりは、俺達が一方的に情報を得ているだけだが、現場で実戦に臨んでいるのは俺達なのだから、問題は無いだろう。


「日付等は?」

「其処迄は・・・、ただ」

「・・・?」

「今、つか・・・、っ」

「・・・どうかしましたか?」

「ぃ、いえ、すいません」


 再び、俺の名を口にしようとして、慌てて止めた救世主。


(別に勝手に呼んでくれても構わないのだがな)


 不思議な感覚を感じさせる女だったが、興味も好意も無い為、逆に馴れ馴れしく呼ばれたとしても、苛立ちを感じる事は無いだろうというのが正直なところだった。


「それで、すいませんが続きをいいでしょうか?」

「は、はい・・・。先ずは、場所なのですが」

「えぇ」


 いつ迄も此処に居たくもないし、俺は救世主へと本題の続きを求め、手短に催促したのだった。


「皆さんにとって、関わりの深い国です・・・」

「え?」

「ディシプルと呼ばれているのですよね。貴方の・・・、もう一つのご家族が暮らしている国」

「な・・・?」


 言い辛そうにしながらも、再確認する必要は無い位ハッキリとヴェーチルが現れる場所を告げて来た救世主。

 ただ、俺は余りにも意外過ぎるその場所に、ただただ唖然としてしまった。


「・・・」

「ぅ・・・、と、何故?何の為にディシプルへと現れるんです?」

「ヴェーチルが降りて来る理由は、リアタフテを継ぐ者の危機です」

「な・・・?どういう事だ‼︎」

「っ‼︎そ、その・・・」


 決して聞き流せない事をヴェーチルがディシプルに現れる理由として告げて来た救世主に、俺はまるで天蓋を裂いて中へと進入し、救世主へと詰め寄らんばかりの怒号を上げてしまう。


「司、止めなよ?」

「アポーストル・・・、黙っていろ?」

「それは、無理な頼みだね」

「こっちだって同じだ‼︎」


 こればかりは、相手がどんな態度で出て来ても、引く訳にはいかない内容である。


「凪の・・・、娘の危機を告げられ、黙っていられる筈無いだろ‼︎」

「其れを分からないと言っている訳じゃ無いよ。ただ、救世主様に其の怒りを打つけるのは止しなよ」

「・・・っ」


 努めて冷静な口調で、俺を止めて来るアポーストル。

 然し、口調とは異なる、深く静かな怒りが見え隠れしている。


「ちっ‼︎」

「ふぅ・・・」

「あの・・・」

「何か?」

「申し訳ありません」

「・・・」


 どうにも苛立ちを抑えられない俺に、責任が無いにも関わらず謝罪をして来た救世主。

 流石にそんな様子に、俺は無言になるしかなかった。


「でも、何故・・・」

「は、はい」

「凪の危機というなら、リアタフテ領に現れるんじゃないのか?」


 苛立ちで、若干冷静さを欠いている俺でも、当然想定出来る疑問。


「リアタフテ領・・・、其処には未来への不安が無いのです」

「未来への不安?・・・っ‼︎」


 未来への不安、其の言葉に頭を過ぎったのはディシプルの世継ぎ問題だった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る