第511話


「ケンイチ将軍」

「・・・あん?」


 今後の対策の会談がお開きになった後、俺は国王を城迄送り届け、ケンイチとの二人きりのタイミングを見計らい声を掛けた。


「この度は、申し訳ありませんでした」

「・・・」


 俺からの謝罪に無言でいたケンイチだったが・・・。


「ちっ」

「・・・」

「漢がてめぇで出した答えだ。最後迄責任持てよ?」

「勿論です」

「ちっ、ならもう良い」


 そう言って、俺に背を向けたケンイチだったが、今回は謝罪が目的では無い。


「ケンイチ将軍。ちょっと、良いですか?」

「あん?何だ、まだ何かあるのか?」

「はい。ケンイチ将軍が、此の世界に召喚された時の話を聞きたいのですが・・・」

「あん?何だそりゃあ?」


 ケンイチが怪訝な表情を浮かべたのは、急な質問で、内容も漠然とし過ぎているからだろう。


「いえ、最初会った時にお聞きしたいと思っていたのですが、そういう感じにならなかったので・・・」

「何だ、てめぇ。文句でもあったのか?」

「い、いえ、そういう事では無くてですね・・・」


 俺の発言が気に入らなかったのか、俺への眼光を鋭くするケンイチ。


(ハッキリと分かった事があるが、やっぱり俺はこの男が苦手だな)


 ただ、そんな事で引っ込められる質問では無く、この事は出来限りの情報を得なければいけなかった。


「ちっ、何で今になってそんな事が気になった?」

「ルグーンが召喚の儀で役割を果たしていたという事は、もしかしたら、召喚の儀と守人達の間に何かしらの繋がりがあるのではと思いまして」

「あん?召喚の儀は国の許可を得て、家が国からの監査を受けながら取り仕切ってるんだ。其処に守人なんて連中が入る余地はねぇよ」

「でも、家に伝わる秘術の件もありますし、何らかの手懸りがあるのではと・・・」

「・・・」

「少しの可能性にでも賭けたいのです」

「ちっ・・・」

「・・・」

「それで、何が聞きてぇんだ?」

「ありがとうございます」


 本当に渋々といった様子で俺の質問を受け入れたケンイチ。

 この機を逃すまいと、俺は矢継ぎ早に質問を畳み掛けたのだった。



「はぁ、納得したか?」

「そうですね・・・」

「っ⁈てめぇ、まだ・・・」


 小一時間、休む間を与えずに質問を続けた俺に、意外にも律儀に応えてくれたケンイチ。

 ケンイチが此方の世界に来た当初、グランに対決を挑み、一方的にボコボコにされた話等、興味深い話はあったが、俺の聞き出したい内容の話はなかった。


(というか、それでこの人、グランに対してあんな微妙に恐れる様な態度を取っていたのか)


「此方の世界に来てから・・・」

「あん?」

「妙な事ってありませんでしたか?」

「妙な事?・・・妙じゃねぇ事の方が少ねえよ」

「まぁ、それはそうですけど・・・」


 急にまともな事を言い出すケンイチに、納得するしかないのだが・・・。


(ケンイチは魔法が使えないから、余計にこの世界の異常性を感じる事も多いんだろうな)


「それに、お前が本当に気になっている事を言わねぇ限りは、俺も応え様がねぇよ」

「・・・」


 ケンイチは俺が本心を明かしていない事に気付いているらしく、俺へと探る様な視線を送って来た。


「例えば、なんですが・・・」

「・・・」

「絶対に、この世界に存在する筈無い存在に出会ったりとか」

「あん?何だそりゃ?」


 これも抽象的な質問の仕方だったが、ケンイチは・・・。


「あの、仮面の男の話か?」

「・・・っ⁈」

「・・・」


 ズバリ、野生の勘の様なもので、俺の心の中で引っ掛かっている部分を言い当てたのだった。


「まあ、てめぇと同じ魔法を使うんだ。そんな奴が目の前に立てば、絶対に存在する筈の無い存在と感じるか」

「ま、まぁ・・・」


 俺の気にしているのが、スラーヴァの事というのは直ぐに言い当てたケンイチだったが、その内容は少しズレたものだった。


「結局、どんなに同じ魔法を使えたとしても、おめぇとあの仮面の男は別人なんだ」

「・・・」

「てめぇという漢を形成するのは、周りの人間も影響してるんだぞ」

「ケンイチ将軍」

「もっと自分に自信を持て。そうじゃ無けりゃ、相手側に飲み込まれるぞ」

「分かりました」


 ケンイチの檄に頷いた俺だったが・・・。


(有り難い言葉だが、結局は・・・)


 本心から心が晴れる事は無く、何処か引っ掛かるものが残ったのだった。

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